今日紹介するのは「凍える森」。何か「港のヨーコ・ヨコハマヨコスカ」みたいな感じなんですよね。なにがと言われそうだけど。
いろんな人への聞き込み調査、みたいな感じで話が進んでいくミステリーです。
この本は、ヒンターカイフェック(Hinterkaifeck)事件という、実際にドイツであった一家惨殺事件が元になっています。普通、本というのは本編があって、その後にあとがきや解説というのがあるものですが、この本は、【はじめに】の所で訳者がその事件を紹介しています。
一九二二年三月三十一日の夜から四月一日の未明にかけて、村はずれの大きな農場に住む六人が何者かに頭を強打されて死亡。
(p.3)
未解決事件として有名だそうですが、もう百年近くになるので解決しようもないのでしょう。
物語が始まるとすぐに出てくるのが祈りの言葉です。キリスト教徒が祈るときの言葉。
主よ、われらをあわれみたまえ!
(p.12)
日本人がいうところの「南無阿弥陀仏」みたいなもの、と言ってしまうのは短絡的かもしれませんが、そのイメージで読めば雰囲気としては伝わるのではないかと思います。村人の閉鎖的な雰囲気は、日本の推理小説でよく出てくる村人と似ています。どこの国でも同じなのかもしれません。この作品で注目すべきは、犯人捜しではなくて、村人たちの人間としての行動です。
踏みつけられてきた人は、自分がその立場になると同じことをするんです。
(p.130)
人間には学習能力というものがありますから、どうしても真似をしてしまうのです。その歯止めになるはずなのが宗教とか道徳・倫理という規範のはずなのですが、踏みつけられれてきた人は、神が救ってくれなかったということを経験的に知っていますから。
もしかすると人は愛している者だけを殺すことができるんじゃないんだろうか。
(p.192)
これは恐ろしいことだと思いますね。