今日は三島由紀夫さんの作品で「夏子の冒険」。
舞台は北海道。そもそもの筋書きは夏子というガンコ親父のような性格の若い娘がウッフン【謎】ではなくて、たまたま出会った男と熊退治をするという話で、自分で書いていても何のことかさっぱり分からんですな。
三島さん自身がどこかに書いていたのですが、漢字のイメージを大切にしていて、まずは漢字で書くか平仮名にするか、そこからよく考えるそうです。例えば、こんな表現が出てきます。
港は風がないとみえて、海面が大そう青くしずかである。そのうすぐもりの海面のしずけさが、しんと鳴っているように思われるほどである。
(p.58)
シーンという表現は漫画にもありますけどね。「しんと鳴っている」というのが何か凄いでしょう。「静か」「薄曇り」と書かずにあえて平仮名で表現する、その表現の妙というか、伝わるイメージがどうよ、というところです。
当時どんな時代だったかというと、あとがきには次のように書いてあります。
敗戦から数年後で、日本はまだ占領下。(略) 良家のお嬢さんは名門と呼ばれる高校なり短期大学を出て「良縁」を持つことが多かった
(p.269)
つまり、夏子はいいとこのお嬢さんなのです。
当時の北海道はこんな感じです。
千歳は今ではアメリカ空軍の町である。病院までゆく道すじの橋げたに、二三人派手な女がよりかかっている。
(p.164)
この女たちが何をしているかは説明するまでもないでしょう。
さて、強烈なキャラの夏子ですが、後半になると不二子という女性が出てきます。これが個性強烈で夏子に負けていません。面白いです。
あの奥さんたち、あたしきらい。いい人らしいけど、あたしきらい。
(p.193)
奥さんたちというのは、夏子の祖母、母、叔母、の3人組です。いいとこのお嬢さんの親ですからセレブですね。いい人かどうか、というのは普通は好き嫌いと連動しそうなものですが、この場合、いい人でもイヤだというのです。本当にいい人なのか、「いい」の中身が違うのか…。三島さんはどこからこんなキャラを仕入れてきたのでしょうね。
この3人組、結構な老人なのですが、その一人はこんなことを言います。
わたくし、年寄ではございません。年をとるまいと思ったのが卅の年で、それ以来年をとっておりません。
(p.229)
30歳から年を取らないようにしたというのです。つまり加齢停止という特殊能力の持ち主【違】なのであります。
この作品、アニメ化するとかなり面白いと思います。もしかして既にあるのかな。
夏子の冒険
三島 由紀夫 著
角川文庫
ISBN: 978-4041212110