今日は「隻眼の少女」を読みました。個人的には、何か、もやもや感の残る作品です。
人間の行動原理は案外単純なものよ。
(p.182)
そこは全く否定する気はないのですが、単純な中に偶発的な要素が満載されるというのが人間の実際の行動です。原理にマッチしすぎるとかえって怪しい感じがしてしまうのです。
この話の主人公は御陵(みささぎ)みかげ。全体は大きく2つに分かれていて、第一部のみかげは登場時点で17歳。第二部に出てくるのは、このみかげの娘です。両方に関わってくるのが大学生で自殺志願者の種田静馬。大学生というのは第一部の話ですが、死に場所を探してやってきたら殺人事件に巻き込まれてしまって、そこで自殺したら犯人にされてしまうから死ぬのを延期する、というのが何かもうそこでアンリアルです。本気で死にたいと思っている人がそんなどうでもいい理由で死ぬのを延期することなんてあるのでしょうか。
と思えば、この種田、最初から死ぬ気はないんですよね。いわゆる死ぬ死ぬ詐欺です。これに対して、みかげは名探偵。
期待の大きさに押し潰されないようにしなければならない。
(p.223)
期待に応えるのではなく、期待を無視するというソリューションもあると思うのですけどね。
もっとも、このストーリー全体が、犬神家の一族のような閉鎖された世界。そのような世界を想定した時点で非存在感に溢れてしまうのは仕方ないことなのかもしれません。と割り切ったら、あとはこの少女探偵にどこまでのめり込めるのか、ということになりそうです。
全体的には最後のオチまで含めて、なかなか面白いのではないでしょうか。ただ、裏表紙に出ているような「超絶ミステリの決定版」まで行くのかというと、何かそこにはもやもやしたものが残ります。
隻眼の少女
麻耶 雄嵩 著
文春文庫
ISBN: 978-4167838461