Phinlodaのいつか読んだ本

実際に読んでみた本の寸評・奇評(笑)

死のオブジェ

今日はマロリーシリーズから、「アマンダの影」の次の作品、「死のオブジェ」を紹介します。

原題は KILLING CRITICS、critics は評論家のことです。この話の冒頭でライカー巡査部長と会談するのが美術評論家のクイン。今回のキーマンです。もう一人、面白い美術評論家が出てきます。アンドルー・プリスです。

いつも他の評が出るまで待っていて、風向き次第でどっちにでもなびく
(p.34)

しかもこのプリスが酒好きときています。酒の勢いなのか何か謎ですが、夜中に忍び込んでブルーミングデールズというデパートの屋上に立てこもります。屋上を封鎖すると、下界の人達を双眼鏡で見て、メガホンで叫びかけます。

「あなたですよ! そこの黒と白のドレスの人、そういう肥満体に、横縞の服は似合いませんよ。お友達からも言われてるでしょう? わたしなら、そう、その地中海風の色には、真紅を合わせますね」
(p.79)

下を通行している人はどこから声がするのか分からないので猛烈にうろたえます。

「まさか、そのゴージャスなアルマーニをバスに乗せる気じゃないだろうな」
(p.89)

この男は仕方ないのでタクシーを拾って去ります。皆さん案外すなおなものです。私有地に勝手に立てこもったら不法侵入になりそうなものですが、

アンドルー・プリスは店の屋上に豪勢なキャンプ場を設けたんだそうです。その後、公共事業委員会の会長の女性がマスコミ向けに、アンドルー・ブリスは進行中のアートであるという声明を出し、さらに、自由人権協会の弁護士が店側の法律事務所を相手に、言論の自由と法的責任について…
(p.106)

持つべきものは権力者のコネというか、アンドルー・ブリスはもともとブルーミングデールズの得意客だし、有名人がパフォーマンスアートをしているというので話題になって宣伝になるというので被害届も出さないで黙認している。そうなると屋上に持ち込んだ食べ物も底をついてしまい、ブリスは死にそうになります。それでマロリーはこっそりパンを差し入れてやります。慈悲とかではなく、死なれると困るからなんですね。なぜそれほどまでして屋上に立てこもるかというと、誰かに殺されると思っているからです。身に覚えがあるんですね。

では、邦題のオブジェって何なのかというと、マロリーが追っているのは12年前の、ピーター・アリエルとオーブリー・ジレットが殺された殺人事件です。オーブリーはクインの姪という関係です。この二人が殺されたときの現場は、死体を使ったアート、オブジェになっていたのです。

事件解決のヒントはクインが抱えているのですが、なかなかガードが堅い。このストーリーには何度も見せ場がありますが、圧巻なのはマロリーとクインのフェンシング対決です。マロリーもなかなかの運動神経ですが、クインはオリンピックで金メダルを取るような腕です。普通にやっては勝てない勝負にどうやってマロリーが勝つか。

フェンシングはチェスみたいなものなんだよ。
(p.434)

フェンシングの経験のあるチャールズの言葉です。フェンシングは運動神経ではなく戦略で闘うものだというのです。マロリーのとった戦略は単純なのですが、マロリーらしい発想でした。伏線もしっかりあって面白い。

マロリーらしい発想というと、最後のシーンのこのセリフも印象的です。

アンドルーは誰も殺していないわ。サブラ。わたしには、人を殺した人間が見分けられるの。
(p.509)

サブラというのはクインの妹で、マロリーはクインに勝ったらサブラの居所を教えろと要求するのです。先のセリフはマロリーが最後にサブラに話しかけたときのものですが、最後のクライマックスは例によってぐちゃぐちゃで誰がどうすれば収拾できるのかわけが分かりません。それにしてもマロリーはなぜ人を殺した人間とそうでない人間を見分ける能力を持っているのでしょうか。

何か全然まとまらないようですが、無理なのでこれで今回終わりです。最後に余談みたいな。警察での会話です。

「でも、殺人事件の発生率は下がっているんですよ」
「今年は選挙があるからな。市長のやつ、警察がイーストリバーをさらうのを許さないんだよ」
(p.312)

殺人事件発生率を下げるには、殺人事件を捜査しなければいいわけですね。確かに合理的です。


死のオブジェ
キャロル オコンネル 著
Carol O'Connell 原著
務台 夏子 翻訳
創元推理文庫
ISBN: 978-4488195083