Phinlodaのいつか読んだ本

実際に読んでみた本の寸評・奇評(笑)

陪審員に死を

今日は昨日読んだ本で、キャロル・オコンネルさんのマロリーシリーズから「陪審員に死を」。陪審員になった人達が一人ずつ殺されます。

謝辞のところで FBI に感謝しているのですが、内容は FBI を無能の集団のごとくボロクソに描いています。こんな作品を公開したら暗殺されてもおかしくないような気もするのですが、FBI の人達って M なんですかね。どれだけ無能かというと、殺人犯に狙われている男、マクファーソン(もちろん陪審員の一人です)を引き渡されて警護している FBI 捜査員がベランダに行って煙草を吸っている間に寝てしまう。その間にマクファーソンは殺されてしまうのです。マロリーの相棒のライカーがこれには激怒します。

最後に到着したライカーが、隊列を突き破り、肉弾となってマーヴィン・アーガスへと向かった。誰にも彼を止める暇はなかった。仮に止めたかったとして、だが。彼は拳骨でアーガスの顔を殴りつけた。
(p.256)

ぶっ倒れたアーガスはこの後罵倒されまくるのですが、何も反論しません。殴れらて気絶しているようです。

今回のライカーは最初から病んでいます。精神的に衰退しています。まるで屍のようだ。

「あの子がどれだけ死んでいるか、あんたには信じられないだろうよ」
(p.300)

これは掃除のおばさん、ミセス・オルテガの言葉です。オルテガはマロリーとガチで対決できる数少ないキャラですね。

イカーがなぜ病んでいるかというと、撃たれたからです。この前の作品を読んでないのですが、そこで撃たれたのですかね。

彼は頭のおかしいティーンエイジャーに四発、撃たれているんです。弾はすべて上半身に当たり、傷はどれも命とりになりかねないものでした。(p.300)

そして3分間死んで蘇生されたということになっています。まさに屍です。人間は簡単に死ぬものですが、ときには死なせてもらえないこともあります。

イカーのファーストネームのエピソードが面白いです。登場人物の一覧にもファーストネームは書いてありません。作品中では、P というイニシャルだけ出てきます。ヨルムンガンドの R みたいですね。今回の重要人物の一人、ジョーはライカーにファーストネームを教えろとしつこく問い詰めますが、なかなか教えてもらえません。

ジョーというのはせむしの女性。背中が大きく曲がっています。作中にはショイエルマン脊柱後弯という病名が出てきます。ジョーの仮の名をジュセフィン・リチャーズ。この偽名で清掃員をやっていますが、実はジョアンナ・アポロという名前で、

「彼女は医者なんです。精神科医なんですよ」(p.241)

職業も騙しが入ってきます。マロリーシリーズにはこの種の職業の人がよく出てきますね。心理学者とか。

ジョーはとうとうライカーのファーストネームを自白させることに成功します。

「ピンパネルね」ジョーは言った。「その花、きっとわたしは見てもわからないわ」
「おれはわかる」
(p.355)

ピンパネルは日本語で「るりはこべ」だそうですが、そう言われてもまだ分かりません。ライカーがそれをわかると断言したのは家の半分がるりはこべの壁紙だったから、というのですが、どんだけ気に入っていたんですか。

この作品のもう一人のキーマンはイアン・ザカリー。ラジオのパーソナリティですが、最初から最後までブチ切れています。本当にこんなセリフをラジオで言ったらいくらアメリカでも一発でアウトのような気もしますが、人権保護団体がバックについているという設定は妙にリアルですね。大切な人を結局守りきれないというのも、リアルなのですが。

エピローグの最後のシーンは泣かせる場面です。


陪審員に死を
キャロル・オコンネル 著
務台 夏子 翻訳
創元推理文庫
ISBN: 978-4488195144