Phinlodaのいつか読んだ本

実際に読んでみた本の寸評・奇評(笑)

この世にたやすい仕事はない (2)

今日は「この世にたやすい仕事はない」を読破しました。読み終わってみて考えてみるに、これは仕事というのは全部繋がっている、辞めた仕事も人脈が出来ていて未来を左右している、のような壮大なテーマがありそうな気がしてきました。

「私」はいろんな仕事をするわけですが、それは「私」を成長させていきます。例えば第3話の「おかきの袋のしごと」では、

あれがだめならこれ、というメンタルはちゃくちゃくと育てていた。
(p.186)

ということで打たれ強くなっています。さらには、

『ふじこさん』の仕事をするようになってから、自分はつくづく相談されるのが下手だし、何も知らないのだな、と思うようになった。
(p.206)

何というか、悟りましたね。ちなみに、ふじこさんというのは、

丸みを帯びた三角形で、粉チーズの絡んだごく小さいあられと海苔を振りかけた、やや薄いしょうゆ味のおせんべい
(p.190)

ということなので、おにぎりせんべいみたいな感じでしょうか。

第4話「路地を訪ねるしごと」では

あいにく私は、前の前の前の前の職場で、人間の心の隙間にそっと忍び込んで、ぷすぷすと針で穴を開けていくような人々に何人か接している。
(p.265)

何事も経験しないと成長しないわけですね。

第4話は、ちょっと宗教っぽいというか詐欺っぽいというか、怪しい団体と密かに本気で戦ってしまうようなシナリオなのですが、どんな仕事にも裏がある、ということが本当はメインテーマなのかもしれません。事務所の盛永さんは「私」にこんなことを言います。

「あなたがそんなに一所懸命になることはないんですよ」
(p.276)

仕事に一所懸命になることは悪くはないと思うのですが。たかが短期の派遣社員が本気になるのも、社員としてはいろいろやりにくいのかもしれません。

第5話の「大きな森の小屋での簡単なしごと」は、仕事としては簡単なのですが、それで病んでしまう人もいるという恐ろしい仕事なのです。最後は花粉症に負けるという驚きのオチなのですが、とりあえず、その森に無断で住み着いた人がいて話がややこしくなります。そのような人がいなかったらどうなるんでしょうね。平穏無事すぎて。その無断で住み着いていた人の談。

自分が食べるためだけに一日中行動し、眠るという生活は、安らかでそんなに悪くはないけれども、物足りなくもあるんだな、と思うようになった
(p.422)

日々是好日、というわけにはいかないようですね。

最後に、ちょっとコレはどうなの、というのがあったので紹介します。仕事先で酷い目に遭った人の談です。

「親に言っても、なんで辞めたんだ、続けられないのはおかしい、としか言わないし、面接で、なんで前の仕事を辞めたんですかって訊かれて、上司から毎日怒鳴られてたからって答えるわけにもいかないし、何て言ったらって考えてて口ごもったら案の定落とされるし……」
(p.300)

んなの私だって速攻で落とすよ。

 

この世にたやすい仕事はない
津村 記久子 著
新潮文庫
ISBN: 978-4101201429