今日はもう完全にアウトなので、朝から病院に行って薬を出してもらいました。本は、耳袋秘帖の2作目、「妖談かみそり尼」です。よくこんなタイトル思いつくな、と感心せざるを得ません。ストーリーはそのまんまで、カミソリを振り回す尼が出てきます。何で尼にカミソリという組み合わせかというと、頭を剃るかららしいです。成程。
前作に続いて妖しい話がいくつか出てきますが、例えばかきつばたの話。
ここでかきつばたの謡をうたえば、かならず怪しいことが起きた。長屋中ががたがた鳴ったり、へっついが急に割れたり、妙な青い明かりが光ったりするのだ。
(pp.161-162)
それで「かきつばた」の歌を歌うことを禁止するというのです。怖いですね。個人的にはあまりそういう話は記憶にありませんが、言霊的なものが発動するのでしょうか。
このストーリーでは若い娘がうっふん、じゃなくて、ブランド品集めにキャーキャー言います。品物を買うのに何度も並んで買うシーンが出てきますが。
並ばせておくのと、並んでいないのとでは、売上げは倍ほど違うのだそうだ。
(p.200)
そりゃたくさん客がいるから並ぶわけで…という単純な話ではなさそうです。いわゆるサクラって奴ですね。
どんな品を売っているかというと、月と星のデザインというのはまだ分かるのですが、あぶら小坊主がカワいいという感性が謎のようで逆にリアルです。キモカワでしたっけ。
人間にはもともと気味が悪いものを好むという性癖があるのさ
(p.256)
そういえばヘビメタなんて髑髏を異様に好みますね。
今回のメインキャラは月照尼という尼さんです。セーラームーンみたいな名前ですね。この尼さんがカミソリを振り回す(笑)のですが、最後は大岡裁き、いや根岸裁きが炸裂します。
ところで、この月照尼、かなり勘がいいようで、それをヒントに品物を売ると売れたりします。先に出てきた「あぶら小坊主」も月照尼のアイデアなんですね。
勘の鋭い人間というのは、ときおりわずかなきっかけで隠れた真実を掴み出したりするんだ。
(p.280)
その裏にある真実を知らないうちに抽出してしまい、少しアブナイ目にあったりするわけです。
最後に一言、いいことを紹介しておきます。
恥もかかないような人生の、何が面白いというのか
(p.347)
今回は銀次というスリの親分が出てきます。既に引退しています。この銀次がお奉行様の根岸と若いときに仲がよかった、というかバクチ仲間だったりするのです。この二人が黒焼屋に出かけるシーンなんか、とても面白いわけです。
町奉行とスリが仲良く昔の思い出を探しに来ただと
(p.292)
町奉行の過去を暴いて脅してやろうと企んだのですが、根岸はそんなこと微塵も隠す気がないので二人一緒に店に来てしまうんですね。秘密だから脅しのネタになるのですが、堂々とされては脅しようもありません。ちなみに黒焼屋というのは、黒焼を売っているという、これもソノマンマの店なのです。
妖談かみそり尼
風野 真知雄 著
文春文庫
ISBN: 978-4167779023