Phinlodaのいつか読んだ本

実際に読んでみた本の寸評・奇評(笑)

若人よ蘇れ・黒蜥蜴 他一篇

今日は電車の中でちょっと読みました。三島です。

若人よ蘇れ、は終戦前後の大学生がグダグダするという戯曲で、新喜劇みたいな感じで読めてしまうのですが、暗い時代ですから悲劇的な空気が混ざっています。ハイになった暗さ、みたいな感じです。例えば。

知識なんて、何の役に立つんだか、よく分かりませんね。
(p.19)

大学生の言うことじゃないでしょう。だから本なんか読まないというわけです。実際、三島由紀夫さんはどれ位読んだのでしょうね。本。

学生と混じって教授も出てきます。

諸君はまだ若い。まだ自分の本当の力を知っていない。もっともそれが分かる時分には、その力がもうなくなっているのが、人間の常ですがね。
(pp.35-36)

それダメじゃね?

戦時中なので、学生も強制的に働かされています。監禁もされています。工場は徹夜で何かしています。徴用工にされたといって騒いだら裁判に勝てますかね? 女子も働かされていました。

女子挺身隊で死んだ女の子たちのなかにも、きっと美人が沢山いる筈です。
(p.89)

これは、これから決死の作戦を行うので、許嫁ともうこの世で会えないなあ、と言った人に対して返答したセリフです。死んでもあの世にだって美人がいる、なんて全然慰めになっていませんが。この戯曲、何が言いたいのか漠然としてはいますが、少なくとも死と恋はテーマの一つのようです。戦争云々じゃないわけです。

僕と彼女は自分の青春を、思い出のほうから見て、いちばん美しく見えるように作り上げたんだ。
(p.97)

生き続けるよりも死んだ方が安心できるというのですが、戦時中の異常心理というか、社会的反逆の一種のようにも見えます。三島由紀夫自身、最後は切腹死しますが、だからといって命を軽視しているようには見えないのと似ています。

何でも分からんやつは、殴ったらわかるようになるだろう。
(p.98)

殴られて分かるというのは実際あるものなのですが、今の日本は殴るのはどんな理由があっても悪という話になってきましたね。その割に過激な動画が拡散したりしていますが、話しても分からない相手にはどうやって対応すればいいのでしょうか、これだけは誰か教えて欲しいです。

それはさておき、この作品は途中で終戦、戦争は終わります。だからといって敗戦は悔しいが平和になったのはバンザイ、というような単純な話ではありません。先に紹介したような死んだ方がいい的な頭の人物もあれば、

われわれは将来どっちみち、銀行か役所かどこかの会社の机に、三、四十年しがみついているだけのことじゃないですか。
(p.120)

平和が何だ、みたいなヤケッパチになっています。ウロボロスというファンタジーでも、最後に平和になってしまって生き甲斐が失われてしまう、という何ともおかしなバッドエンドがありますが、戦争が終わってうろたえているというのは何なんでしょうね。戦争は悲劇であるべきなのに、この戯曲では自決する特攻隊の士官さえも何か滑稽だから不思議なものです。

 

若人よ蘇れ・黒蜥蜴 他一篇
三島 由紀夫 著
岩波文庫
ISBN: 978-4003121924