Phinlodaのいつか読んだ本

実際に読んでみた本の寸評・奇評(笑)

星影の娘と真紅の帝国(下)

今日はレイニ・テイラーさんの「星影の娘と真紅の帝国」の下巻です。上巻は先日紹介しましたが、ざっくりすぎて意味不明になっていますね(笑)。

背景を説明すると、セラフ(天使)とキメラ(悪魔)が戦争をしている世界があって、キメラの娘、カルーが、セラフのアキヴァと恋をするというストーリーです。前作「煙と骨の魔法少女」で破局となった後にどうしても絆が切れない状況に陥っています。上巻で殲滅寸前のキメラがゲリラ作戦で反撃に出たところがジリというカルーの同族の兵士が捕まってしまう、拷問を受けるがうまく逃げてくる、というところで終わっています。

さて、下巻ですが、ジャイエルという危ないキャラが活躍【謎】します。

ジャイエルは醜い。とはいえ、その歯は折れていても、心はまったく折れていない。
(p.17)

心と歯は関係ないようですね。

カルーの友人だった人間、ミックとズザナも何故かキメラのアジトに来てしまって、しかもなぜか客人としてうまくやっています。普通なら人間なんて食われてしまう状況なのですが、カルーの友人ということで生き延びているわけですが、そのミックはこんなことを言います。

大事なのは、ずる賢くなるってことなんだよ。
(p.30)

ずるいだけでは潰されますからね。この人、最初からズルい性格でしたね。バイオリンが得意技です。バイオリンを弾くと化物達がなごむという設定は面白い。

カルーは蘇生師なので、瀕死のジリも治します。回復したジリが何故逃げられたのか説明するときに、カルーに手渡したのはハチドリ蛾。これはアキヴァがジリを助けてくれた証拠であり、カルーがそれに反応したらマドリガルの生まれ変わりであることの証明になるからです。「煙と骨」のストーリーを知らないと分からない話ですが。

戦争の方は泥仕合になって、相手の子供を殺し合うという壮絶な状況。カルーはアキヴァに対して、キメラの子供を殺したと非難します。アキヴァは、

自分の剣で子どもを殺しはしなかった。だが、殺そうとする者たちに門戸を開いたのだ。
(p.79)

だから殺したに等しい、と考えるのですが、こういうことは現実世界でもよくある話です。ただ、本人は気付いていないことが多い。だから救われません。

キメラの司令官はシアゴです。かつてマドリガルを殺した本人ですが、キメラの蘇生
師だったブリムストーンが死んでしまい、カルーに頼るしかないので、とりあえず手を組むしかない状況は実にスリリング。このシアゴが割と機嫌のいいときにカルーにワインをすすめますが、拒絶されます。

乾杯の一杯を断るのは不吉だと信じる者もいるぞ
(p.142)

不吉というのは聞いた記憶もないですが、日本では失礼だとされていますよね。アルコールが駄目な人は断っていい、というのが今時のルールのようですが。

さて、この巻では、シリサーという状態が出てきます。魔術師が無敵になるような状態のようです。

これはなんなんだ? この明るさ、高揚、軽さ。どこまでいっても穏やかなその状態のおかげで、周りの世界の動きが遅くなり、明確になり、なんでもみえてくる。
(p.215)

ご都合主義というか、必殺技で盛り上がっていくパターンなのか。ただし、アキヴァはまだ自由にシリサーになることができないし、いつ状態が終わるかもわかりません。コントロールできないのです。

さて、アキヴァとハゼイエル、リラズという仲良しの兵士は反逆を企て、邪知暴虐な王を殺そうと決断します。メロスではないのであっさり成功しますが、それがジャイエルの思う壺、一応狙い通りに殺せたのに、さらに事態が悪化してしまいます。その後、後半のクライマックスはナントそう来たかという意外な展開だらけで凄いのですが、一応伏せておきましょう。

そして結果的に、セラフの代表のアキヴァと、キメラの代表のシアゴ、そしてカルーが洞窟で集結し、一時的に手を組んでジャイエルと戦おう、というところで本作は終わります。この後、3部作の最後へと続いていくわけです。

 

星影の娘と真紅の帝国(下)
レイニ テイラー 著
桑原 洋子 翻訳
ハヤカワ文庫FT
ISBN: 978-4150205669