Phinlodaのいつか読んだ本

実際に読んでみた本の寸評・奇評(笑)

生命の泉

ハヤカワFTなのでジャンルとしてはファンタジーですが、どちらかというとオカルトっぽい感じの内容です。タイトルは最初「幻影の航海」でしたが、後に「生命の泉」と改題されました。「パイレーツ・オブ・カリビアン/生命の泉」の原作です。ただし、ストーリーはかなり改変されているようです。(私は映画を見ていません)

主人公のジョン・シャンダニャックは、叔父を探して旅行中。しかし船が海賊に襲われてしまいます。乗客は皆殺しになるかと思いきや、

仲間になれ、おれたちに命をあずけろ、さもなきゃいますぐあの世行きだぞ
(p.58)

というわけで海賊の仲間になってしまいます。いきあたりばったりです。

最初はコックをやらされるのですが、だんだん出世していくから世の中分からない。シャンダニャックなんていう面倒な名前は発音できないということで、仲間からはシャンディと呼ばれることになりますが、銃の腕もよかったりして、海賊仲間と一緒になかなかの活躍をして、結局はハッピーエンドなの、という感じの微妙な話。

海賊の名はデイヴィス。なかなか不敵な感じのキャラですが、悪人というよりは合理的、頭の切れる男で、ビジネスライクに海賊をやっています。個人的に一番気に入ったシーンは、最後のクライマックスではなく、第一部の最後の山場、英国海軍とのバトルで負けそうになった後に大逆転するところです。何をやったかというと、ネタバレですから伏せておきますが、注目したいのは、シャンディ

「そのとおり。だから君たちも欺かなければならなかったのさ。敵を欺くにはまず味方からってね」
(p.170)

そんな簡単な話ではないのですが、とにかくこの人、何をやらかすか分からない性格が面白い。

第二部では魔法のかかったジャングルの中に侵入します。このあたりはファンタジーっぽいですね。

キノコ頭が目をあけ、じっさいに言葉をしゃべっている
(p.234)

目的地は生命の泉と呼ばれている場所。なぜそう呼ばれるのかというと、

「なぜなら、あの場所を使えば死者を生きかえらせることができるからだ」
(p.294)

ということでゾンビのような生き物(?)が出てきたりして、まあそのあたりはホラーです。Gorillaz の Rhinestone Eyes という歌が YouTube に上がっていますが、あのアニメに出てくるガーゴイルが魔法で操る船員みたいな感じでしょうか。

シャンダニャックは個人的な恨みで叔父のセバスチャンを探して追い詰めますが、対面したときのグダグダぶりも何ともいえません。ホラーとドタバタコメディの入り混じった奇妙な作品です。500ページを超える長編で、結構読み応えがあります。


生命の泉
ティム・パワーズ Tim Powers 著
中村 融  翻訳
ハヤカワ文庫FT
ISBN: 978-4150205317