Phinlodaのいつか読んだ本

実際に読んでみた本の寸評・奇評(笑)

魔法科高校の劣等生 師族会議編

魔法科高校の劣等生、17~19巻は師族会議編です。師族会議というのは十師族のトップ会談です。

ですが、本編の概要をいうならば、師族会議は単なる飾りで本筋は顧傑(グ・ジー)を片付ける話です。顧傑は華僑で四葉家に恨みを持っており、その復讐として日本に邪魔なことなら何でもしたがる性格という設定になっています。中華系の魔術師のイメージなのか、死者を操る術が使えます。若干反則っぽいかもしれませんが、それを言ったら達也のように死なないという技は超反則ですけど。達也は死者を操る顧傑に対して嫌悪感を抱きます。

奴隷にすら死ぬ自由がある。
(19巻、p.161)

そういうレベルの自由を侵害するのは邪悪だ、という考え方になるのですが、これはドライな達也にしては感情的かもしれません。

達也のドライな考え方を示す表現ですが、こういうのがあります。

「大丈夫だ、と考えろ。駄目だった時のことを考えても意味はない」
(17巻、p.98)

夏休みの宿題とか、間に合わなかったらどうしよう、と悩んでいるだけで実際やらない人がいます。結局、8月末になって、大慌てで宿題をすることになってしまうでしょう。一方、間に合わないとか、いつやるのだとか、何も考えずに遊びまくってハッと気付いたら8月末、大慌てで宿題をやることになる人もいます。やることが結局どちらも同じなら、何も悩まずに夏休み遊んだ方がトクって感じがしますよね。そういう話ではないような気もしますが。

達也は普通ではない感覚も持っているので、こんなことも言います。

「普段から肉眼でしか見ていないものであれば、光と影だけでも不安を覚えることはない。だが、お前のことは、いつも別の『眼』で視ているからな」
(19巻、p.100)

視覚のような感覚としては認識できないが、魔法として変化がわかる、ということのようです。「イヤな予感」程度なら感じる人は結構いるでしょう。それは単に刺激として得られた情報のパターンを今まで学習した経験にマッチングさせて得られた危険度数なのか、それとも何か別の次元の警告なのか、そこが科学と魔術の境目です。

他人は、自分のために同情する
(17巻、p.130)

これは、ほのかに対する雫の言葉です。雫はこのシリーズでは達也と並んでクールな感じのキャラですが、確かに心理的行動はその人の心理の範囲内で発生するものであって、当然そのベースになるのは自身の都合に決まっています。ほのかは同情されたくないといいますが、同情するのは同情する人の勝手ですから、他人にはコントロールできません。

どんなに親しいお友達でも、お互いに気を遣わなければ人間関係は上手く行かない
(17巻、p.149)

親しき仲にも礼儀あり、といいますね。たまに全く気を遣わない、コイツはコミュ障か、みたいな人と仲良くしている人もいますが。気を遣えば何とかなるのかというと、「君の膵臓を食べたい」みたいな本を読んでしまうと、どうだかな…みたいな感じもしてきます。

成人年齢はもうすぐ18歳になるそうですが、この物語では二十歳ということになっています。

過去、成人年齢は一旦十八歳に引き下げられたが、二〇七〇年代に再度二十歳に引き上げられている。
(18巻、p.36)

個人的には成人年齢は将来は不定になるのではないか、と想像しています。具体的にいえば、15歳以上で受験資格が得られる成人試験に合格した人、のような形式になるのではないかと思います。

かつては成人として満たすべき条件は、体力であり、生殖能力でした。今要求されているのは、そのようなフィジカルなものではなく、むしろ知的な能力、判断力や知力でしょう。そうなってくると、単に年齢が到達したからといって成人として社会に参加するというのは許されない、一定レベルの判断力が前提となる社会が来るのではないか、という意味です。

法規の試験に通らないと運転免許がもらえないように、社会のルールを知らない人は社会人免許がもらえないような社会が来るのでは、ということです。判断力をもたない多数が支える社会は、それの是非はともかくとして、結果としては恐ろしいものがあります。

「テロを起こした責任はテロリストにある。だから今は俺と同じように思っていても、テレビやネットで『市民を巻き込んだ魔法師にも責任がある』と繰り返し吹き込まれれば、少なくない人々がそういうものかと信じ込んでしまうだろう」
(18巻、p.45)

モリカケ問題がいい例ですね。アベが悪いとマスコミが言えば事実とは無関係に無知で判断力のない市民はそれを信用してしまう。多くの人にとって重要なのは面白さであって、証拠や論理はどうでもいいからです。

シュレディンガーのぬこ【謎】的な話題も出てきます。

人が動けば必ず痕跡が残る
(18巻、p.188)

同様な表現として、

何かが変化すれば、そこに必ず「変化した」という情報が痕跡として残る。
(19巻、p.57)

この方が哲学的に理解しやすいのではないでしょうか。そもそも、変化したという情報が全く得られなければ、変化したことは認識できませんから、最終的には変化が認識できない変化を認めてもいいか、という不毛な命題に陥ってしまうのです。

最後に、そりゃそうだと思った一言。

危険な状態が続くと、人はそれに慣れてしまうものだ。
(19巻、p.309)

これは本編の最後にショートストーリー的に追記されている「一条まさき転校日記」、からです。危険な状態に限らず、人間の感覚は基本的に相対量を識別するようになっていますから、ある状態が続けば変化としては0、つまり認識されなくなるのは当然のことです。辛いものを食べたときに水を飲みながら食べると、辛さに慣れた舌がリセットされて、余計辛く感じます。


魔法科高校の劣等生 (17) 師族会議編 (上)
佐島勤
石田可奈 イラスト
電撃文庫
ISBN: 978-4048653138

魔法科高校の劣等生 (18) 師族会議編 (中)
ISBN: 978-4048655125

魔法科高校の劣等生 (19) 師族会議編 (下)
ISBN: 978-4048658096