Phinlodaのいつか読んだ本

実際に読んでみた本の寸評・奇評(笑)

アドリア海の復讐

何か眠いな。本どころではないと書きたいところだが、とりあえずアドリア海の復讐を読んだのでブツブツと書いてみよう。ジュール・ヴェルヌの古典的名作。物語が始まる前に、モンテ・クリスト伯の作者のデュマ氏にカヴァーする許可を求める文章が出てくる。つまり、この作品はモンテ・クリスト伯にインスパイアされた作品なのだ。

モンテ・クリスト伯があまりにも凄い超名作だから、そこからどんな作品が導出されるのかと思ったら、それがまたなかなか凄い作品なのだ。

昨日ちょっと紹介したように、まず悪い奴らが出てくる。サルカニーって名前がまた悪そうな感じだ。猿蟹みたいなバトルを想像してワクワクする。もう一人がツィローネ。悪い奴だが最初はとても貧乏だ。金も食い物もないから、ハトをみたときに、

食べられる種類にちがいない
(p.27)

ということで、捕まえて食おうとする。このハトが今ではあり得ない伝書鳩だった。伝書鳩が運んでいた暗号を解読して、ハンガリー独立のために蜂起しようとするメンバーを警察に通報する。メンバーはザトマール伯爵、バートリー、サンドルフ伯爵。三人は暗号がなぜ警察に漏れたのか不思議がる。

すべての文書は破棄されていた。
(p.102)

削除した文書が出てくるというのは、よくあることなのだ。

3人は死刑を宣告され、死を覚悟したのだが、偶然サルカニーが密告者だと気付いて考えを変える。脱獄して復讐しようといのだ。

一見美談ではあるが、しかし考えてみたら、政府から見れば反抗勢力であって、反乱を警察が鎮圧するのも当然のことだ。どちらが悪いとかどちらが正しいと簡単に決められる状況ではない。とはいっても小説の中ではサルカニーは悪人に決まっているからこれでいいのだ。

とにかく三人は脱獄を試みるが、バートリーとサンドルフ伯爵が川に落ちて濁流に流されていく。ザトマール伯爵は逃げ損ねて撃たれてしまう。バートリーは溺れかけるが、割と泳げるサンドルフ伯爵が手を捕まえて、

もうだいじょうぶだぞ!
(p.137)

大丈夫だという時は、たいてい大丈夫ではない。

運よく二人は生き延びるが、警官が脱獄囚を探し回っている。二人は漁師の家にたどり着く。今晩泊めてくれと言ってみると、漁師のアンドレア・フェラートは承諾した。

「ご主人」とサンドルフ伯爵は言った。「パジンの要塞を脱獄した死刑囚をつきだしたひとには五〇〇〇フローリンの賞金が出るんですよ」
「知ってまさ」
「その連中を泊めたひとは徒刑場行きですよ」さらにサンドルフ伯爵は言った。
(p.161)

このあたりのやりとりは、レ・ミゼラブルのシーンを思い出す。ミリエル神父と出会うシーンだ。

うまく匿ってもらえたが、今回も密告者が現れて警察がやってくる。サンドルフ伯爵は驚異的な運のよさと根性で何とか逃げ切るが、バートリーは捕まって処刑されてしまう。

これで復讐のお膳立ては整った。第二部になって、伯爵はアンテキルト博士と名を変える。エドモン・ダンテス変じてモンテ・クリスト伯になるわけだ。博士はラグサという町で、強烈な助っ人を仲間にする。頭のキレる「とんがりペスカードと、怪力の大男、大山マティフーだ。大山というと日本人みたいだが、この本、最後までずっと大山マティフーという名前である。この男、どの位強いかというと、牛と戦って、

牛が頭を下げて彼におそいかかろうとした瞬間、彼は牛の角をつかんで、腕をぐいとひねると牛をひっくりかえした。
(p.219)

まるでマス・オーヤマのようだ。

二人は大道芸人。金を持っていないところは悪人二人組と同じだが、この二人は善人だ。二人を仲間にするときに、

「わたしのところにふたりともこのままいるようつごうがつけられませんか?」
(p.249)

なぜ平仮名? もちろん、渡りに船とはこのことで、二人は荷物を片付けに行く。

「さあ、おれたちの小屋をたたみに行こうや。安心しろ、だれにも借金はないんだぞ、破産するわけもないんだしな」
(p.254)

誰も金を貸してくれないから無借金なのだ。

(つづく)

 

 アドリア海の復讐〈上〉
ジュール ヴェルヌ 著
金子 博 翻訳
集英社文庫
ISBN: 978-4087602197