Phinlodaのいつか読んだ本

実際に読んでみた本の寸評・奇評(笑)

夜は短し歩けよ乙女 (4)

また明日なんて書いてしまったからもう書くしかないではないか。仕方ないから書いているのは「夜は短し歩けよ乙女」の第四章、これが最終章だ。個人的にはその後に出てくる「かいせつにかえて」だけでも雰囲気が分かるからokという気もするが、それはそうとして、第四章のタイトルは「魔風邪恋風邪」である。ご想像の通りで、風邪をひく話だ。

以上。

え、短すぎる? しかし風邪を引く以外の何物でもない話だと思うのだが。全体的にくだらない話しか出てこないし。例えば黒髪の乙女が自分がボーッとしてしまう話では、

その「ボーッ」は「ボーッ」の中の「ボーッ」、「世界ボーッとする選手権」というものがあれば日本代表の座も間違いなしと思われるほどに筋金入りのボーッ
(p.242)

とか言われても、そもそもそんな選手権もボーッと競技もないわけだし、無我になればいいのなら座禅おたくには勝てないような気もするし。とはいえ、黒髪の乙女の、

たとえ単位を落としてでも、羽貫さんのお見舞いに行くべきです。
(p.244)

という決意は称賛に値するだろう。学生たるもの、単位なにものぞ、という意気込みが必須なのだ。途中で東大路のスーパーに立ち寄るあたり、何か風景が想像できてニヤけてしまう、そうはいっても京都には長年行ってないから最近の様子は分かっていない。しかし去年、観光でチョロっと行ったような気もするが、とにかく京都は一度は隅々までちょこまか歩き回ってどうせなら本の上に檸檬でも置くような付加価値のある街だ。

羽貫さんは玉子酒に注文を付ける。

玉子酒はね、玉子と砂糖抜きでね」
(p.245)

玉子を抜いても玉子酒は成立するのだろうか。牛丼でいえばつゆだけのような感じだ。もちろんつゆだけというのは白米につゆをかけた食い物であって、つゆしかないわけではない。もちろん玉子抜きは却下されて普通の玉子酒を飲まされるのだが、案外オイシイそれを飲んだ後、

「風邪引いた時って、ヘンテコな夢を見るよね」
(p.246)

それは本当にあるあるで、私の場合はインフルエンザ、ここ数年どころか十年以上かかっていないかもしれないけど、インフルエンザにかかったときに凄いシナリオの夢を見た。ちゃんとメモってあるからいつか本にしたいと思っているのだが、あれは、なんでがなあつたらうか?

さて、先輩の下宿は

北白川の東小倉町
(p.246)

にあるらしい。それはとりあえずおいといて、羽貫さんは結局風邪がよくならないので、病院に行くことになる。

大きな病院はイヤよう、、もっと病気になっちゃうもの
(p.249)

今年はインフルエンザが猛流行していたようだが、インフルエンザの予防接種を打ちにいったら、その時に移されてしまい、インフルエンザになって寝込んだ、という話をラジオで聞いたような気がする。ツイてない人だなぁと思ったが、とりあえずそうなるとタミフルでも飲んで寝るしかない。

さて、先輩は風邪を引いても大学に行くのだが、

我が実験台はすでにほか二名の軟弱者が風邪に倒れ、ここで私が倒れれば実験データが出ない
(p.257)

一体何の実験をしているのだろうか。美少女系のホムンクルスとか作っていそうで怖い。しかも「マサト」しか言えないみたいな。で、すぐに黒髪の乙女の話に戻って、

風邪には人それぞれの治し方があるものです。
(p.259)

それは中学の保健体育で教わったような気がする。風邪を引いたら外に出てランニングをして汗をかけば治るというのだ。これを逆療法という。試験には出なかったような気がする。

まず思い浮かぶのは、母がすりおろしてくれた林檎です。
(p.259)

すりりんご、私も思い浮かぶけど、あまり記憶にない。個人的にはモモの缶詰。ももかん。風邪というより、麻疹とか、水疱瘡とか、結構重い病気にかかったときに、食欲はもちろんないのだが、おかゆと梅干と、デザートのモモ。そんな記憶がある。モモが病気とリンクしているのは、寝込まないと出てこなかった食べ物なのだろう。で、次は先輩の言葉。

恋に恋する乙女は可愛いこともあろう。だがしかし、恋に恋する男たちの、分けへだてない不気味さよ!
(p.264)

確かに想像するのが怖いほど不気味だ。何故だか分からんが。風と木の詩のような世界だとそんなに不気味でもないような気はするが、河合隼雄氏によればあれは少女の心理描写らしい。そして先輩は詭弁論部だけに、なかなか詭弁がウマい

あらゆる要素を検討して、自分の意志を徹底的に分析すればするほど、虚空に静止する矢の如く、我々は足を踏み出せなくなる
(p.279)

飛ぶ矢は動いてるんですけどね。実はパラパラ漫画だからフレーム単位では動いてないという解釈も、ていうか分析なんかしなければ普通に一歩前に進めるのでは…

もう時間がないし、やはりこんなの書いていても終わりそうにないから幕を引きたいので端折ってノー分析でエンディングに進めてしまうと、この風邪、結局は李白さんが第一感染源だったという仕組みになっていて、なぜか風邪を引かない黒髪の乙女がジュンパイロという伝説の薬を持って李白さんの家に向かう。

その時の私は、いわば歩く風邪薬でした。
(p.295)

正露丸とかではなくてよかったと思う。とはいえ正露丸、あれはフタを開けた瞬間に部屋が殺菌の匂いで満たされてすごく効きそうな気分になってくるのだが、風邪薬ってあまりそういうイメージがない。ベンザとかパブロンとか味ないし。改源ってどんなだっけ。関東ではあまり売ってないのだ。

李白さんはたいへん恐ろしい高利貸しという噂でしたが、私にはまるで祖父のように優しい方でした。
(p.299)

確かに黒髪の乙女って高利貸しの孫娘的なイメージがあるかも。お爺さんの名前は貫一かな。高利貸しが恐ろしいというのは金を借りて返さない奴が言うことだろ。貸してくれるときは、とても優しいものだ。そういえば、この話、

「今日は冬至ですよ、一年で一番、長い夜です」
(p.308)

そんな前提条件があったのか。ちなみに今日は春分の日だ。朝のラジオで「今日も元気でいってらっしゃい」みたいなことを言ってたような気がするのだが、普通のサラリーマンならお休みの日、どこに行かせようとしているのだ。ちなみに私はオフィスにいるけど。あとはファイル比較してパスしたら帰れるけど、帰れそうにないのはなぜだろう(※無事帰宅できました)。

最後に先輩と黒髪の乙女は、竜巻に吸い上げられて空中で遭遇することになる。

彼女は微笑み、声にならない声で「奇遇ですね」と言った。
(p.310)

サウンドオブサイレンス。確かに奇遇だが、竜巻の中のような気圧の状態で会話はできるのだろうか。入試問題に出したら出題ミスとかいって大騒ぎになりそうで面白そうだけど。何だかわけがわからないうちに先輩は万年床で眼を覚ます。夢オチ? いやいや、森見さんはそんな凡庸な落とし方はしない。落とすときは空前絶後のあり得ない高さから突き落とす。眼を覚ますと横には黒髪の乙女が座っていた。

思えば遠くへ来たものだ。
(p.312)

どんな部屋だったのか想像すると恐ろしいものがあるが、ここから後はしかるのち死ぬ程恥ずかしい話なのでもはや書く気にならない。しかしこれ続編とかないのかな。


夜は短し歩けよ乙女
森見 登美彦 著
角川文庫
ISBN: 978-4043878024