Phinlodaのいつか読んだ本

実際に読んでみた本の寸評・奇評(笑)

日本の無戸籍者

昨日紹介した本を半分程度読んだので、途中までだが紹介する。実は1度斜め読みしていたりする。気が向いたら続きを書くかもれない。

ざっくりいえば、この本は、戸籍がない人に関していろいろ解説したものである。それにしても

そもそも「登録していない人」を把握することは難しい。
(p.3)

悪魔の証明みたいなものだから、当然そうなるわけだ。しかも、戸籍がない人は裁判で戸籍を取ることができるのだが、いざ戸籍を取ろうとすると、

戸籍がないから調停・裁判をやろうとしているのに「戸籍謄本を持ってきて」と指示されたり、
(p.12)

役所にも無茶を言われたりするようだ。しかし、この本の著者である井戸まさえさんは、裁判を起こして子供の戸籍をgetできたのである。前例のないことなので、まず調停を申し込んで不成立になった後に裁判を起こす、という大変な努力をして、

こうして「勝訴」に至ったのだが、敗訴側も喜ぶ、そして誰もが納得する奇妙な瞬間だった。
(p.18)

どういう状況か説明させていただくと、離婚してから300日以内に生まれた子は前夫の子とみなすという法律がある。しかし子供の父親は前夫ではない。戸籍に入れてしまうと前夫との子になってしまう。そこで、現在の夫を相手に認知の裁判を起こした。現在の夫は自分の子だと認めているから本来は裁判を起こす必要もない話のはずなのだが、裁判で勝訴しないと現在の夫の子にはなれないのである。

今はDNAを調べれば高い確率で親子関係を証明(あるいは親子でないことを証明)できる。300日以内などという非合理的な法律が今も生きていること自体がおかしいのだ。

戸籍がなくても国民健康保険に入れるというのは知らなかった。しかも、うっかり入ると、

過去三年分に遡って保険料が請求される
(p.36)

これは怖い。

この他にも、戦争で戸籍が失われた例とか、虐待が絡んでいて逃げ出したとか、いろいろ悲惨な事例が紹介されている。歴史的な事例としては「サンカ」や「家船」というキーワードが出てくるが、詳しい話は出てこないのがちょっと残念だ。

江戸時代の話としては、

当時、無戸籍者たちは「無宿」「無宿者」と呼ばれた。
(p.90)

木枯らし紋次郎がそうだ。紋次郎の場合は戸籍も何も、島抜けしてきたのだから完全に国の管理外、存在するはずのない人間なのだが。

日本の無戸籍者
岩波新書
井戸 まさえ 著
ISBN: 978-4004316800