Phinlodaのいつか読んだ本

実際に読んでみた本の寸評・奇評(笑)

短歌は最強アイテム――高校生活の悩みに効きます

今日は「短歌は最強アイテム」、千葉聡先生のエッセイ。本の中では「ちばさと」と呼ばれています。

岩波ジュニア新書だから、高校生あたりがターゲットでしょうね。舞台も高校です。短歌がたくさん出てくるけど、それ以外の細かいところのやりとりが面白い。

「いつもおとなしい人に限って、怒ると怖いんだよな」
(p.6)

人間の感覚は相対的です。いつも怒っていると相手は慣れてしまうので怖がりません。いつも怒らない人が怒ると、普段とのギャップが大きいので怖いのです。

さて、ちばさと先生は、連絡用黒板を、そうとは知らずに短歌を毎日書くために使ってしまうのですが、

そういえば、短歌の紹介を始めて間もない頃、ある先生から「連絡があるのに、どこに書けばいいの?」と強い口調で言われたことがあったっけ。その言葉の意味が、今ようやく分かった。
(p.28)

これは「ある先生」の責任だと思いますね。コミュニケーション能力がないのはそちらだと思います。空気を読めといわれても、この感じだと知らないものはどうやっても知り得ないですから、このように気がつくまでその状態は続いてしまうでしょう。この話は、気付いた後に謝るタイミングが分からないというのが面白いですね。結果的に黒板は占領した状態が続くのです。

正義感を振りかざすと本人は、わりとすっきりする。正しいことを正しく / 実行できた喜びを味わえる。
(pp.84-85)

ネットの炎上のメカニズムはこれか。正義感を振りかざすための便乗。正しいと信じているからスッキリする。誤爆とかありますが、気にしなくていいのでしょうか。

クラスが船だというところ。どう認識しているかが、ちばさと先生らしいです。

もし、船の人たちが冷たく感じられたら、その原因を突きとめればいい。自分も、相手も、同じ乗組員。ちゃんと向き合えばなんとかなる。
(p.98)

その「ちゃんと」向き合うのも難題だと思いますが、それ以前に、同じ乗組員で括ってしまうところが、らしいわけです。個人的には、そんな甘い世界は滅多にないと思います。原因だって分からないこともあるし、相手がおかしいし間違っているけど直す気は全くない、というようなケースもいくらでもありますよね。さらに力関係は相手が上、となってくると手におえません。

仲良しの名前の件も面白い。

最初に話しかけて仲良くなったのは、すぐ近くにいた子だったんですね
(p.105)

クラスの初日、出席番号順に席に着かせます。今は違うかもしれませんが、昔は名前の五十音順に出席番号を割り振っていました。すると、五十音順に近い名前の人が友達になる確率が高いという話です。

確認してみました。私と仲良しだった友達の名前は、「エ…」「カ…」「キ…」「ス…」「フ…」「ニ…」「ヤ…」…あれ? 特に近くないです。バラバラだ。しかも、この中には名前的に近い人がいることはいますが、それって家が近かったですから、五十音はあまり関係ないです。基本的に私が一匹狼派で、友達になるよりも1人で本を読んでいる感じだったので、席が近くの人を友達にするという必然性がなかったのかもしれない。

名字に「さん」をつけて呼ばれると、それだけで距離をおかれているように感じるんですよ。
(p.107)

よそよそしいのは分かりますし、普通、クラスメートさ「さん」を付ける人いないですよね。私は1人だけ「さん」付けで呼んでいた友達がいますが、なぜ「さん」を付けていたのか思い出せません。「○○さん」まで含めてあだ名みたいな感じでした。

イチャイチャの論理もちばさと先生らしいです。

だが、ここで「人目につくところでイチャイチャするなよ」と注意するのは、なんかおかしい「人目につかないところに隠れていれば、何をしてもいい」と言うのと同じになる。
(p.134)

イチャイチャしていいというのは、何でもアリとは違うと思うんですけど。和歌を教える先生なら、昔は御簾に隠れてみたいな話でもいいと思うわけです。

高校は三者面談も大変みたいです。こういうの、私には無理っぽいですね。

リラックスというのは、シャキッとしたあとでやることでしょ?
(p.145)

親御さんから、子供が家でダラダラしているといわれて、リラックスしてるからいいのではと言ったらこの反撃です。確かに「シャキッ」抜きのリラックスは微妙ですね。ちなみにこのネタ、子育てはツッコミ力、というオチが付いているので興味がある方は読んでみてください。蛇足しておくと「つっこみか」じゃなくて「つっこみりょく」です。

先生のお母さんが入院した後の、

親の介護、幼い子の世話、病気の家族の看病、退勤時刻になると急いで帰宅する職員は少なくない。今まで俺は、そういう同僚たちの前で、無神経なことを言ったりしなかっただろうか。
(p.156)

無神経というのが難問です。無神経って何かと問われて返答に詰まるのは花詩集だったかな。相手の心の中は絶対に分からないのだから、どこかで誤差は必ず発生します。そこが無神経ということになってしまうと、やりようがない。かといって何も考えないのもおかしい。

最後に、これは面白いと思った話が、

先生のお家では「うさぎ親子」なんですね。うちの場合は「お姫様ごっこ」でした。
(p.165)

これじゃ何のことか分からないと思いますが、面白いです【謎】。あと、教訓譚としては、

教員が生徒に教えてもらうことのほうが案外多い。若者の柔軟な発想が、ものごとの本質にたやすく迫る道を切り開いてくれるのだ。
(p.182)

これも感覚として分かりますね。すぐれた人ほど、誰もが先生だというような感覚を持っているそうです。

ところで、この本には短歌がたくさん紹介されているのに、まだ一度も紹介していない。といいつつ、その中じゃないのですが、

「俺の前髪がヤバい状態になったら、そっと教えてくれよ」
(p.4)

これは短歌じゃないか(笑)。真面目に1つ紹介。

水性のペンキを買いに出た子から「彗星ペンキがない」とメールが
(p.140)

分裂して落ちてくる感じかな。


短歌は最強アイテム――高校生活の悩みに効きます
千葉 聡 著
岩波ジュニア新書
ISBN: 978-4005008636