Phinlodaのいつか読んだ本

実際に読んでみた本の寸評・奇評(笑)

22世紀の酔っぱらい

SF。微妙な未来の社会が舞台。話が始まるとすぐ、大学で数学を教えているコーナット教授は18階の部屋から窓に近付いていく。

彼は自殺しようとしているのだ。ここ五十日に、彼は九回も試みているのだ。
(p.8)

自殺癖があるわけではない。行動的に自殺しようとしているのは事実なのだが、自殺する気はないのである。無意識に自殺しようとするという不可解な状況なのだ。コーナットは無意識に自殺するのは寝起きの時が多いことに気付く。気付けば対策できそうなものだが、それがなかなか難しい。ついに結婚して寝起きの時に妻に監視してもらうことになるのだが、それでもうっかり自殺を試みてしまう。

ネタバレしてしまうと、割とありふれたオチというか、ぶっちゃけ遠隔操作されているという話なのだが、それってコントロールする側も大変だろう。だって、コーナットがいつウトウトするか分からないのだから、24時間フルタイムでコントロールを試みるしかない。過労死ラインどころじゃない。そんな面倒なことをするより、毒でも使ってサッサと殺してしまった方が簡単だと思うわけだが、そんなことをすると小説が成り立たなくなってしまう。

タイトルに「酔っぱらい」なんて言葉が使われているのは、もちろんそれが重要なポイントだからだが、まあでもそんなにたいした話ではないのだ。酒を飲みながら気軽に読んだ方がいいような気もする。

ストーリーには不死者が出てくるけど、いまいち生き生きしてないところが何かの風刺なのかもしれない。船上ビルとか原住民とか面白いシナリオがいくつか出てくるが、世界観が出来上がる前に話が終わってしまうような所はちょっともどかしい。

ときどき唐突にピリっとしたセリフが出てきてニヤっとする箇所もある。例えば、

ノーといわれるより、もしやという期待を残しておいたほうがいつもいい。
(p.25)

なるほど、演出的には定番の手法なのかな。本文中では「セールスマンの本能」と表現されている。

すべてを見る、つまりどれも見ていないということだ。
(p.186)

確かに。モニターテレビで多数の番組を同時にチェックしているシーンに出てくる。しかし、見ていないのも見ているのも同じだと思えば全然問題ないか。


22世紀の酔っぱらい
フレデリック・ポール 著
井上 一夫 翻訳
創元推理文庫
ISBN: 978-4488644017