Phinlodaのいつか読んだ本

実際に読んでみた本の寸評・奇評(笑)

レキシントンの幽霊

今日もやたら歩いたので本など読む暇はなかった。はずなのだが読んでしまったので仕方ない。

これも短編集。1つ目の「レキシントンの幽霊」は、レキシントンに幽霊が出るというだけの話。個人的には割とよくあるというか、経験しているような話だからいまいちだった。こういうことって、よくあるよね。え、ない?

2つ目の作品は「沈黙」

人はあらゆるものに勝つわけにはいかないんです。人はいつか必ず負けます。
(p.56)

負けた後にどうするかというのはこの続きに出てくる。

「ある日突然、僕の言うことを、あるはいあなたの言うことを、誰一人として信じてくれなくなるかもしれないんです。
(p.82)

私もそういう経験がある。小学2年か3年の頃だったと思う。このような経験をすると、人格というか、人間性が変わるような気がする。

でも僕が本当に怖いと思うのは、青木のような人間の言いぶんを無批判に受け入れて、そのまま信じてしまう連中です。
(p.84)

日本の大多数の国民がそうですよね。

3つ目は「氷男」。アイスマンか Ice Man。英語だと何かカッコイイ。スノーマンなら季節的にぴったりなのだが。言ってることもクールで、

夢は過去からくるものなんだ。
(p.104)

予知夢が否定されてしまった!

4つ目が「トニー滝谷」。この短編集の中ではこれが一番好みだ。最初に読んだときに付箋を付けたところが、トニーの父親が天涯孤独となったときの描写で、

しかし彼はそのことをそれほど悲しいとも切ないとも感じなかった。
(p.117)

ここに付箋を付けたのは何となくで、理由がよく分からなかったのだが、何か気になったのだと思う。しかし読み終えてからもう一度考えてみれば、この1文がこの作品の中で最も重要なところのような気もするのである。

トニーも孤独慣れして独りで平気なタイプなのだが、結婚した後に不安になることがある。

孤独でなくなったことによって、もう一度孤独になったらどうしようという恐怖につきまとわれることになったからだ。
(p.128)

私はこの感覚は分からない。いつ孤独になっても平気だろうという感覚はずっと昔から今に至るまで持ち続けている。

この小説で一番面白いと思ったのは、アシスタントとして募集した女性が洋服が一杯ある部屋の中で泣いてしまうところ。

「七番目の男」は、台風の目の中ってあまり経験がないので微妙。急に静かになるというのは何度か経験したが、外に出ても別に晴れているわけではなかった。目のはっきりしない台風だったのかもしれない。

最後の「めくらやなぎと、眠る女」でハッとしたのは、

いちばん辛いのは、怖いことなんだよ。実際の痛みよりは、やってくるかもしれない痛みを想像する方がずっと嫌だし、怖いんだ。
(p.189)

痛みを創造するって感じなんですよね。

レキシントンの幽霊
村上 春樹 著
文春文庫
ISBN: 978-4167502034