Phinlodaのいつか読んだ本

実際に読んでみた本の寸評・奇評(笑)

小僧の神様・城の崎にて

タイトルになっている「小僧の神様」と「城の崎にて」を含めて18の短編が収録されている。

個人的に印象に残っているのは「佐々木の場合」だ。「僕」と子守の「富」が逢引しているときにお嬢さんが火傷をするシーンである。

火が出てくるシーンはショッキングだからだろうか。とはいえ、志賀作品の真骨頂はさりげなく深い心理描写である。小僧の神様のAが寿司を奢った後に悩む場面が深い。

人を喜ばす事は悪いことではない。自分は当然、或喜びを感じていいわけだ。ところが、どうだろう、この変に淋しい、いやな気持は。何故だろう。何から来るのだろう。丁度それは人知れず悪い事をした後の気持に似通っている。
(p.122)

いいことをした筈なのに悪いことをした気分というのが面白い。何となく分かる気がする。「真鶴」では、あれこれ悩んだ挙句、欲しかった帽子がそれほどでもなくて弟にやってしまう、心理の移り変わりがリアルである。

リアルなのかどうかよく分からない話が「転生」という作品。今風にいえばバカップルみたいな話だが、夫婦が生まれ変わっても仲良くしようという。

「人間に生れて来たんじゃあ、いつまで経っても同じ事だよ。女の馬鹿は昔から通り相場だ」
(p.178)

この話では良人の方が馬鹿に見えるのだが、とにかくじゃあ何に生まれ変わればいいかという話になって、狐がいいとか、オシドリがいいとか相談する。結局、オシドリにしようと話がまとまる。原文では鴛鴦という漢字で書かれている。

その後、良人が先に亡くなって、約束通り鴛鴦に生まれ変わるのだが、何年かして細君が亡くなったときに、何に生まれ変わる約束だったか忘れてしまう。という話。


小僧の神様・城の崎にて
志賀 直哉 著
新潮文庫
ISBN: 978-4101030050