Phinlodaのいつか読んだ本

実際に読んでみた本の寸評・奇評(笑)

カリスマが教える偏差値29からでも180日間で東大・早慶大に合格できる究極の方法 改訂新版

いわゆる受験本。ラノベみたいな長くてすごいタイトルが付いているが、そんなことが出来るのなら来年の東大は50万人ほど合格者が出てもおかしくないぞ。もちろん、そんなことは物理的にあり得ない。とはいっても、この本に書いてあることが間違っているわけではない。その通りにやれば合格しそうだが、その通りにできる人が滅多にいない、というよくあるパターンの本だ。

そもそも、著者自身が現役では目標の早稲田に合格できず、浪人してから1年間猛勉強している。

私の1日の受験に費やす時間は平均17時間を超えていた。
(p.150)

180日間という話が一体どこに行ったのか分からない。巻末の著者経歴にも、次のように書いてある。

1日平均10時間の学習を行い早慶3学部に合格(学習時間計 13,000H以上)。
(p.189)

平均10時間で1万3千時間勉強したのなら、1300日かかっている。3年半だ。もちろん著者自身の体験は試行錯誤も含まれているし勉強法が確立していないので、そこを差し引かないといけないのかもしれないが、それにしても浪人の1年間の平均17時間というのは常人にはできそうもないし、さらに、そこまでやってもなお東大に合格できない(松原さんは早稲田卒)という現実はまさに非情である。

とにかく、平均17時間というのは凄いと思う。私は一時期仕事が忙しくて毎日17時間パソコンを使っていたことがある。だから17時間という凄さが分かる。1年間続けたら死んでもおかしくない量なのだ。睡眠時間3時間は死守したというが、確かにそんな感じになる。しかも松原さん、

睡眠不足(6時間未満)では記憶定着率が低いです。
(p.78)

とか平気で書いているから面白い。自分でやってみて確かめたのかもしれないが。

さて、その勉強論だが、これは極めて合理的だ。確かにその通りと頷きたくなること請け合いだ。いきなり出てくるのがこれ。

初めて本格的に勉強するべき科目は現代文なのです。しかも小説ではなく評論を。
(p.34)

普通の受験本だと、時間がかかるから英語とか数学と書いてある。現代文からやれというのは珍しい。その理由だが。

現代文の“理解の仕方”は勉強に最も効果的な思考のベースになるのです。
(p.48)

いいところに注目している。全科目の中で、数学と現代文だけは、原則的に解答を丸暗記しても何にもならない。解答ではなく「解き方」を理解しなければいけないのだ。理解の仕方というのは論理的思考のことである。参考書の文章の奥に隠されているロジックを取り出して頭に入れていく。これは勉強の極意だ。

何も難しいことを言わなくても、現代文が要になることは簡単な話である。受験に使う参考書は全部、現代文で書いてあるのだ。英語の参考書ですら、細かい説明は全て現代文である。だから、現代文を論理的思考で読み解く能力がないと、参考書を読んでもうまく理解できない。ちなみに理解とは何かというと、

理解するとは、“分ける”ということなのです。
(p.101)

同書には酒井敏行さんの「酒井の現代文 ミラクルアイランド」から引用したと書いてある。先日チラっと紹介した“「分ける」こと「分かる」こと”には、それがどういうことか、1冊の本の量でまとめてある。分けるというのもそう簡単ではないのだ。そもそも、分けるためにはそれが何か分かっていないとできないことが多々ある。

ただ、この本は180日間というタイトルが付いているのだが、論理的思考に関しては、次のような目安が出てくる。

早い人で1週間、遅くても3週間後にはセンター試験レベルの評論文は軽く読めるでしょう
(p.49)

どうだろうか。文章が読めない人の「読めない力」はそう甘くない。速く読めないどころか、そもそも語彙が分からないから書いてある内容が理解できない。しかも、本当に読めない人というのは、仮に理解できたとしても、読んでいるうちにどんどん最初に書いてあったことを忘れてしまうという。そういう人が3週間で対応できるのだろうか。

どうも数字が出てくる割に数値の根拠が薄い。おそらくこの本を読んで偏差値29から180日間で東大に合格できる人は、100万人に1人いるかどうか、おそらくもっと少ないだろう。って何の根拠もない勘ですが。

少なくとも、毎年大学に進学する約60万人のうち偏差値29以上に相当する約59万人が仮にこの本を読んで実践したとしても、100%東大に合格することは絶対にない。これは間違いないし根拠は書くまでもないだろうが、念のため蛇足しておくと、東大は定員が約3千人だから59万人も合格できないというのが理由だ。

なお、具体的にどの参考書やれとかいう話は出てこない。実践編という別の本もあるが、Amazon のレビューを見ると酷評だらけで面白い。


カリスマが教える偏差値29からでも180日間で東大・早慶大に合格できる究極の方法 改訂新版
松原 一樹 著
エール出版社
ISBN: 978-4753928514