Phinlodaのいつか読んだ本

実際に読んでみた本の寸評・奇評(笑)

きつねのはなし

怪談です。舞台は京都。それだけで怖いですね【なにが】。しかも狐ですから。でも、タイトルとは裏腹に、この本にはきつねが出てきません。広い意味ではキツネなのかもしれませんが、変なケモノは出てきます。

【honto 電子書籍】きつねのはなし

例によって京都の地名がわんさか出てくるので、京都マニアならより楽しめます。短編がいくつか入っていますが、それぞれ登場人物が絡んでいます。

最初の話は「きつねのはなし」で、タイトルになっている作品。キツネではなくキツネのお面が出てくるのですが、キツネは行間に隠れているのかもしれません。

「夜遅くに一人で起きていて、なんだか、わけもなく怖くなることがありませんか」
(p.16)

芳蓮堂という古道具屋の女性、ナツメさんの言葉です。わけもなくというのは、私は最近そういうのは特にないですね、何か気配がするとか、そういうのはあったかも。気配だけでなぜ怖いのかというと、気配が怖いのではなくて、それが誰なのか分からないからなのでしょう。もう欲しいものかないからダメというオチは怖いですね。

2つ目は「果実の中の龍」。龍を彫った根付が出てきます。ヘンな先輩も出てきます。森見さんはヘンな先輩が好きなのかも。

「ああいう人が本を読んでいる様子というのは、とても真面目に読んでいるようには見えないね。ただ頁をぱらぱらめくって遊んでいるだけに見えるね」
(p.102)

速読ですね。この能力者の先輩と付き合っているのが瑞穂さん。瑞穂さんが割とサメているのが面白い話です。

「みんな、なぜそんなことにこだわるの。その方がよっぽどつまらない」
(p.136)

ここで「そんなこと」というのは先輩がつまらない人かどうかという大問題なのですが、つまるかどうかというのは実は難しい問題なのです。この瑞穂さんが最後にネタバレをしてしまうのですが、

「本当でも嘘でも、かまわない。そんなことはどうでもいいことです」
(p.145)

自分がそうだと思ったものは現実なんですよね。ていうか、サッサとばらさないのは何だったのか。

3つ目は「魔」。

初めて彼女を見たのも雨の中であり、最後に彼女と会ったのも雨の中である。
(p.167)

この話の「私」が語るところですが、サラっと読んでしまいそうで案外重い伏線なのかもしれません。一度目に読んだときはうっかりスルーしてしまいました。それにしても女子高生が出てくる話はウキウキします。しかしこのストーリーは怪談です。モノノケというか、ヘンなケモノが出てきます。

「あれはなんだろうね。すごく長くて、するする走って、空き地を出たり入ったりする」
(p.215)

胴体が長くて、白い歯をむき出しているようです。千と千尋の神隠しに出てくる白龍を小さくした感じかな。この本の Amazon のレビューはいまいち微妙ですが、私はこの「魔」が一番好みですね。女子高生が出てきたからではなくて、構成とか。

最後、4つ目が「水神」。逸話として人魚の話がチラっと出てきます。竹林に囲まれた池の底に神社が沈んでいるというのは幻想的です。通夜の後、身内が集まって酒を飲んでいるときにとんでもないことが起こります。水害です。うる星やつらの竜之介のオヤジが「海が好き~」と言いながら飛び出してきそうな感じがします。この話は淡水のようですが。元凶の家宝を持ってきたのが最初の話に出てきたナツメさんというのが粋ですね。


きつねのはなし
森見 登美彦 著
新潮文庫
ISBN:9784101290522