時代小説。天野一角が無理難題を片付けるシリーズ3作目。
喜連川藩の宿場は参勤交代の宿として使われる。これがバッティングしてしまった。
同じ日に織田家と伊達家が本陣を使うことはできないはずです
(p.19)
そりゃ当然の話で、両家を怒らせずにうまく凌ぐにはどうするかという話。次から次へと難題が出てきて大変なことになる。交渉に行ったら途中で荷物を置き引きされるし、宿屋は火事になる。店がボロいので普請しろと命じても金がないといって言うことを聞かない。大名行列が来るのに食材の魚も肉もない。それどころか料理人がいない。こんなにアタフタして無事で済むのとかという状況なのだが、剣の達人の一角が全部何とかしてくれるから、こりゃ面白い。サクサク読み進めることができる。
その天野も街道に石畳を敷けといわれて少しキレかける。
「いえ、できないものはできない、わからないものはわからないと申しているのです」
「それが口答えというのだ! できるかできないかは調べてからいうべきではないか。わからないもの、わかるものも同じだ」
(p.181)
言い訳はいくらでもできるのだが、相手が上役だからどうしようもない。もちろんこの程度のゴタゴタは一角、簡単にクリアしてやり過ごすのだが、できるかできないかは調べてから言えというのは一理あるような気がする。ソフト開発でもこういうのはよくあって、できるかできないかは先に調べて、試作してみると納品レベルに近いものが出来たりする。ほぼ出来たというのは黙っておいて「恐らく納期内にできます」と答える。
江戸で19年修行したという料理の鉄人を連れてきて、ご家老に試食してもらうところの料理は実に美味そうだ。
石板を熱し、それに肉の切り身をのせ、塩を振り、焼けたところで柚汁を振りかけ、醤油ダレをつけました。
(p.283)
美食家の老中に絶品と言わしめた石板焼き、普通にステーキで、肉は猪か鹿だ。これは食ってみたくなる。
喜連川の風 参勤交代
稲葉 稔 著
角川文庫
ISBN: 978-4041043653