Phinlodaのいつか読んだ本

実際に読んでみた本の寸評・奇評(笑)

夢の守り人

守り人シリーズ3作目。 今回は夢の世界にトリップします。薬草師とは仮の姿、実は呪術師見習いのタンダがまず夢の世界に行ってみたいと思います。探し物はタンダの姪のカヤ。 寝たら起きなくなってしまったのです。眠り病かと思いきや、魂があっちに行って戻ってこないことが分かって前途多難。それで、夢の中に入って何とかしようというストーリーです。

最強呪術師のトロガイ婆さんも何とかしようと四苦八苦して、星読博士のシュガと密会して相談します。 トロガイのアドバイスに、シュガはそれでは間に合わないから役に立たないというのですが、

わしの恩師が、よくいったものさ。すぐに役に立たないものが、無駄なものとは限らんよってね
(p.120)

なるほど、 確かにあとからじわじわ利いてくるものもあります。三年殺しとか。

今回は、トロガイの若いときの話が出てきます。 トロガイは昔、夢の世界に行ったことがあったのです。夢の世界に行ったときの回想ですが、

たとえ、このまま死ぬのだとしても、あの村の生活へは、もどりたくなかった。
(p.73)

キツい生活だったようですね。これがかなり重要な伏線になっているのですが、普通に読んでたら伏線に気付きません。読み直してください。 タンダの回想の中でも、トロガイ師は奥の深い言葉をいいます。

人はね、生きるのに理由を必要とする、ふしぎな生き物なんだよ。
(p.131)

解脱する人もいますが。十牛図を見ても、何だ結局それか、みたいな。 さて、タンダは夢の世界に行ってカヤを探しますが、見つける前に罠にハマってしまいます。 この時の<花番>の呪文。

――そなたの夢は…。
(p.148)

後半も唱えたところで呪いの完成なのですが、タンダは自分の言葉で呪文を重ねます。

――そなたのものにあらず。<花>のものなり。
(……おれの夢のみ、おれのものなり)
(p.148)

呪文を重ねるのは必殺技でしょうか。ピングドラムにも出てきますが。 このおかげでタンダは意識を失わずに済みますが、魂は元の世界に戻れなくなってしまいます。 後半、トロガイがタンガやその他諸々の捕らわれた人達を連れ戻しに、夢の世界に乗り込みます。 トロガイ師は面白いことを言ってます。

眠りは、とても、死に近いのさ。
(p.299)

寝たら死ぬぞ、という格言もあるし。呪いか言霊みたいな気もしますが。そういえば最近ヘンな夢、というのは見覚えのない光景が出てくる夢をたまに見るのですが、大丈夫でしょうか。 誰かが呼んでる?

ところで、この回の文庫本の解説は、養老孟司さんが書いています。ファンタジーを読み出すとやめられない止まらないという話で、

上橋さんのファンタジーでも、既刊全部を読み終えるのに、結局は数日を潰したはずである。 (p.344)

私は今3冊目ですが、隙間スイッチが入った時間だけ読んでいるのでトータルは不明です。本気で読むときは、ザックリなら、多分10冊で1日かかるとか、そんな感じです。山岡荘八さんの徳川家康という大作がありますが、文庫本で全26巻。あれを丸2日で読み直したことがあったと思います。ていうか最初は1日で読もうとしたら流石に無理でした。 ネットでは2日間ライブみたいな芸も流行っているようですが、延々と本を読んでいるところを2日生中継とかアリなんでしょうか。

こういうのも面白いですね。

文章はじつは身体で書くもので、ふつうに思われているように、頭で書くものではない。
(p.344)

何か分かるような気がします。ていうか頭で書くと片っ端から忘れそうな気がします。なこともないか。 書かされているという感じのときもあるかな。 さて、最後に、胡蝶の夢的な話が出てきます。

だから夢と「現実」が区別がつかなくなるというのは、あんがい的を得た表現なのである。
(p.344)

なかなか当を射た解釈だと思いました。


夢の守り人
上橋 菜穂子 著
新潮文庫
ISBN: 978-4101302744