守り人シリーズの2冊目、6月21日に紹介した「精霊の守り人」の続編です。
この話では主人公バルサは闇の世界に入り込みます。闇の世界が洞窟にあるというのは説得力がありますが、
洞窟に、明かりをもちこんではいけない
(p.22)
何かを暗示しているような気がするのですけどねぇ…よく分かりません。世の中には知らない方がいいことがある、みたいな。
物語は、カッサとジナという子供2人が洞窟に入り込んで絶体絶命のピンチ、それをバルサが助けるところから始まります。カッサは15歳。子供というにはちょっと育ちすぎていますか。少年かな。ジナはカッサの妹です。このカッサが洞窟からルイシャ<青光石>という貴重な宝石を持ち帰ってきたので大騒ぎになります。 売れば大金持ち、といいたいところですが、王でないと売れない宝石なのでコッソリ売ることができません。 売ったところで、どうなるか。
考えてもごらん。きゅうに金持ちになったわけを、氏族の人たちに、どう説明するの? たとえ、よい嘘を思いつけたとしても、氏族の仲間たちをあざむいて、わたしたちだけ金持ちになって、おまえは幸せ?
(p.80)
ウソをついてまでして幸せになれるのか、というのが日本人的な感じがします。自国のためならウソをついて平気という国は普通にありますけど。どことは言いませんが、歴史を紐解くと謀略の繰り返しだったりしますよね。
バルサの人生観も面白いです。
せっかく、ジグロにもらった命、楽しんで、生きなきゃな、と思うようになったわけです
(p.118)
牧童の長老、トトもいいことを言う。
どんな理由があるにしろ、おまえみたいな、いい子に、あんな嘘をつかせるやつぁ、信用するんじゃないぞ。
(p.134)
バルサの育て親であり剣術の師匠であるジグロもいいことを言います。とはいってもジグロはこの話では既に死んでいます。回想シーンですね。
「……人をたすけるのは、人を殺すよりむずかしい。そんなに気張るな」
(p.179)
もう一つ。
おれが、たどってきた道の、どこかで、別の道を選んでいたら、もっとよい人生が、あったのだろうか
(p.179)
この話全体に出てくるのが運命論的な背景です。destiny です。すべてさだめ、というのは009でしたっけ、よく覚えてませんが。一般に長老格の人たちは何でも運命にしたがるような気もします。バルサも流石にキレます。
あの日々を――あの苦しみを――運命なんて言葉で、かるがるしくかたづけないでくれ!
(p.255)
とはいっても他の登場人物はともかく、バルサは数奇な運命で動いているようにしか見えないのですが。 バルサが案外面白いことを言っています。
「槍を使うのは、いざというときだけ。か。……それが、幸せなことなのかもしれないと、考えたことはあるかい?」
(p.232)
柳生新陰流ですか。活人剣。無刀取りの極意は相手に刀を抜かせないことでしたっけ。
闇の守り人
上橋 菜穂子 著
新潮文庫
ISBN: 978-4101302737