Phinlodaのいつか読んだ本

実際に読んでみた本の寸評・奇評(笑)

下町ロケット

ドラマにもなりました、下町ロケット

実は私はドラマを一度も見ていないという驚きのアレなんですが、本も読んでなかったというのはさらに驚きですよね。何となくgetしたので読んでみました。

人間の本性が現れるのは、平時ではなく、追い詰められたときである。
(p.62)

まあよく言われていることかもしれませんが、改めて言われるとその通りだなと思うわけで、この小説、殆どが平時ではなくクリティカルなので、最初から最後まで追い詰められているのが凄いです。だいたいの小説はそういうものかな。

逆説的に面白いのが、

金は人を変えるんだ。
(p.79)

ある意味、真理のようなものなのですが、おっとどっこい。ところが主人公の佃社長は、金で動かない偏屈なキャラなんです。

仕事というのはとどのつまり、カネじゃないと佃は思う。いや、そういう人も大勢いるかも知れないが、少なくとも佃は違う。
(p.227)

実際、基本的に職人ってヘンな人が多いですよね。プログラマーそういうのがいますね、シニアプログラマーは職人ですからね。金では動かないしプログラムも動かない。まあ冗談はさておき、いきなり特許侵害で訴えられて、出てくるのがスーパー弁護士。

神谷自身、弁護士という仕事はしていても、おそらく技術者としても一流の人間なのだ。
(p.100)

ウチみたいなナノ企業はともかく、ちょっと会社が大きくなったら特許屋から訴えられますよね、こういう話はリアルで経験があるととても面白い。あるあるです。しかしこの種の技術に強い弁護士というのは、特にITやソフト系だと、そういないと思います。

トーリーとして気になったところが一箇所あります。訴えられて、社長率いる佃製作所と悪役のナカシマ工業が裁判になりますが、ここに出てくるのが帝国重工という、のちにデススターを開発する大企業です【ウソ】。開発中のロケットで使いたいので佃製作所の特許を買い取りたい、と言ってきます。結構な金額を提示するのですが、先に紹介した通り、佃社長はヘンクツなので、金では動きません。帝国さん困った。ミッションを与えられた財前部長も困った。

バルブシステムの特許を手に入れること。そのために、持ち前のセンスと実行力の全てを振りしぼるときだ。
(p.176)

この後、大企業寄りのはずの裁判がなぜか佃製作所の実質勝利ともいえる和解勧告を提案してきます。さらにマスコミがナカシマ工業のあくどい法廷戦略を暴露する記事を連載し始めます。ははあ、これは財前部長、裁判官やマスコミにから何かしたな、と思ったのですが、そのような記述がどうにも見当たりません。単なる偶然にしては出来すぎていて違和感があるのですが、そうでもないのかな。

裁判が終わって、後半は、特許を利用して自社製作したいという帝国重工と部品供給にこだわる佃製作所のバトルになります。 これもまたカネ絡みでひと悶着あるのですが、社長の言葉。

いいか、信用っていうのはな、ガラス製品と同じで一度割れたら元にもどらないんだよ
(p.398)

普通は、信用は一度失ったらなかなか取り戻せない、という感じではないかと思いますが、ガラス製品ときましたね、絶対に修復不可能。 このあたりも社長のこだわりみたいなのがあるのかもしれませんが、ちょっとこの箇所は含みも持たせています。

最後に、最初のロケット打ち上げが失敗した原因を分析している佃社長の言葉を。

あのときは特に異例だった。最終設計審査が終了した後に、エンジンの仕様を新しいバルブに合うように変えていった。認めたくはないが、拙速だったかもしれない。 (p.421)

ソフト開発でもよくある話です。作ってからの仕様変更。だいたいバグはそういうところで発生するものですよね。


下町ロケット
池井戸潤 著
小学館文庫
ISBN:9784094088960