Phinlodaのいつか読んだ本

実際に読んでみた本の寸評・奇評(笑)

ジョニーは戦場へ行った

第一次世界大戦、ジョニーは戦場で爆撃を受ける。

どこかでわめき声がし、彼は退避壕に飛び込み、何もかも見えなくなり、彼は時を失った。
(p.144)

一命は取り留めたが、代償として両手両足と視力と聴力を失い、口をやられたので話もできなければ食べることもできない。鼻もやられて臭いが分からない。それは幸いと表現してよいのだろうか。しかし臭いが分からないのは幸運だという。

寝たまま、腐って行く自分の身体のにおいをかぐのはやりきれない。
(p.106)

そうせずに済むから、というのだ。

もちろん、この小説のテーマは戦争である。昔の戦争は、領土を拡大して富を奪い取るためにやった。今の戦争は平和自由のためにやっているのはご存知の通り。

間違っている。自由のために戦場におもむき、最前線の塹壕に入り込むものはみんな馬鹿者だ。
(p.128)
そしておおぜいの男たちが死んだ。五百万、七百万、一千万という男たちが出かけて行って死んだ。世界の安全をはかる民主主義のために、死ぬ直前でさえそのことをなにも感ずることなく、世の中の安寧を保つということのために死んでいった。
(p.135)

恐ろしいことにジョニーは意識がはっきりしている。モンテ・クリスト伯に出てくる老人は、まばたきをして意思を伝えることができた。ジョニーは目をやられているからそれすらできない。あるとき名案が閃く。

彼はいまでもモールス記号を覚えていた。
(p.182)

その昔、インターネットなど気配すらなかった時代に、遠くの人と情報交換するためには無線機を使った。最も単純な構造の無線機は、電波を出す、出さない、その2種類の状態によって文字を伝えた。これがモールス信号である。デジタルである。これを使えば、指一本でトントンと机を叩いて会話ができる。ジョニーに指はないが、頭だけはわずかに動かすことができたのだ。

まず手始めに、彼は枕から頭を挙げ、上げた頭をまた下ろしてみた。
(p.182)

しかしこれが意図的な情報発信であることに誰かが気付いてくれるまでには、長い時間がかかる。

最後には聖書のシーンが出てくる。イエス誕生のところ。戦争とクリスマスが似合うのは何とも皮肉な話だ。ついにモールス信号に気付いた人がジョニーの信号に応答する。その返事は、WHAT DO YOU WANT。


ジョニーは戦場へ行った
ドルトン・トランボ 著
信太 英男 訳
角川文庫
ISBN: 978-4042292012