Phinlodaのいつか読んだ本

実際に読んでみた本の寸評・奇評(笑)

「奨学金」地獄

奨学金が返済できなくなって破綻する人がいる、というニュースを見たことがあると思う。この本の裏表紙には、次のように書かれている。

生活苦と返済苦にあえぐ人々の実態、制度の問題点と救済策を明らかにする。
(表紙裏)

実際に奨学金返済で窮地に陥った人達の事例は、第1章、第2章の80ページ以上を使って、細かく紹介されている。

実は私は、この本を読むまで、これほど現実が酷い状況であるとは想像していなかった。テレビの報道では、返済のためにサラ金で借りて行き詰ったような話だったから、利息も計算できない人が超低金利奨学金を最高金利サラ金で借り替えて自分の首を絞めている、程度に考えていたのだ。

しかし、現実は違った

あまにのヒドさに驚愕とした。おそらく皆さんは誤解していると思うので、ハッキリ書いておく。ヒドいのは、借りる人達の非常識と無教養とモラルのなさだ。

奨学金返済に困っている人達を被害者のように考えているかもしれない。考えを改めて欲しい。この人達は明らかに加害者である。しかも故意に近い意識で借金を踏み倒そうとしている。あるいは借りているという意識すらない。こんな人達に金を貸す方が悪い

だから、先に結論を書いておきたい。奨学金制度は廃止すべきである。実際に返済に困っている人達は5%未満、そのために残りの95%は切り捨てろというのか。そうだ。5%の非常識な人達のせいで社会問題になるのなら、95%に泣いてもらった方が平和だ。今、大学に行きたい人の理由は学問だけではない。「遊びたい」「とりあえず就職したくない」という理由で大学に行きたがる人が大勢いるのである。そんな人達に低金利で金を貸す必要はない

その代わり、本当に大学で勉強したいという人達のために、国公立大学は全て無償にする。修業に必要な教科書やパソコンも無償にする。寮も無償で入れるようにする。

繰り返すが、奨学金を借りる人たちの非常識無教養モラルのなさは、想像以上にあまりにも酷い。 本当にとんでもないのだ。借りる時点で返済のことが全く分かっていない。事例2にこんな言葉が出てくる。

あれだけふらふらになるまで働いたのに、620万円も借金していたわけです。愕然としました。
(p.36)

金を借りておきながら、いくら借りたのか返済する直前まで分からない、そのことに愕然とする。 この人はまず専門学校の2年間で、5万円を2年借りた。これで5×2×12=120万円。さらに、短大に行き、系列の大学に編入することになる。今度は10万円を4年借りて、10×4×12=480万円。足せば600万円になる。これが利息を入れて620万円になったという話で、計算はだいたい合っていると思う。 さて、この話のどこに愕然とする要素があるのだろうか。10万円を借り始める時点で、4年間で480万円になることは分かる。仮に掛け算を知らないとしても、振り込まれた金額を足していけば、どれだけ借りたかは分かったはずだ。小学生でもできるような計算をなぜしないのか。

そもそも専門学校から短大に進学して6年間も学校に行くところで失敗している。それもわざわざお金のかかる私立大学を選択している。普通に国立大学に4年通えば、大学の学費だけでも200万円ほど少なくて済んでいるはずだ。この人の経済状況から想像すると、学費減免になった可能性は高いから、もっと負担は少なくて済んだだろう。

しかも、こんな奇妙な話が、この人だけではない。

「400万円」
パソコンに表示されたその数字は、美紀さんの利子を含めた返済総額だった。
愕然とした。
(p.45)

もしかして、最近の奨学金は、借りる時点で返済額を秘匿しておいて、驚きの返済総額はCMの後で、のようなシステムになっているか?

無教養というのは、こんな驚愕の話が出てくる。

奨学金は借金です』とはっきり言われていたら、暗くなったかもしれませんが、『貸与』という言葉だったので…。
(p.39)

お金を貸与してもらったら借金に決まっている。朝三暮四に出てくるサルの話を思い出す。

少子化が進み、大学進学希望者総数が定員合計を下回っている。選り好みしなければ誰でも大学に行ける時代になった。一流校に行きたい人は浪人してでも挑戦するから、人気のない大学には定員割れの学部・学科がたくさんあるのが実情だ。その結果、「貸与」という言葉の意味も知らない人間が大学に進学しているのではないか。

このような事例がいくつも出てくるのだ。

卒業時に総額でいくら借りることになるのかを知ってびっくりしました。『何、このゼロの数!』って。高校ではそんな話、いっさいなかったんです。
(p.53)

まるで被害者のような言い方なのが面白い。今の奨学金は超低金利である。ほとんど借りた額を返せばいいのだから、借りる金額に月数を掛けるだけでだいたいの返済額になる。それが「このゼロの数」なのだ。

そもそもこんな人たちに大学に行かせようとする方が間違っていると思う。

モラルがないという点について。 まず、借りたものは返す。これが当たり前だということに異論はないだろうか。この本の事例に出てくる人なら異議アリといいそうだが、普通の感覚としては、借りたものを返すのは当たり前だろう。 しかし、この本にには、返す気がない人が出てくる。 さらに、もちろん人生いろいろだから、返せない状況になることもあるだろう。その時にモラルとか常識が少しでもあれば「次回の返済ができない」という連絡を、自分からするだろう。 しかし、ここに出てくる人達は、そんな連絡はしない

この間、日本育英会から奨学金事業を引き継いだ日本学生支援機構より何度か連絡が来ていましたが、返す目処も立たなかったため、数回電話をした後は、そのままになっていました。
(p.69)

貸した側からわざわざ連絡してくれたのに、結局ガン無視している。返せないという理由で放置するのである。踏み倒そうという意欲がミエミエである。 このような人間を救済する必要はない。この後一括返済を迫られることになるが、当然だ。あまりにも酷い態度に裁判官も怒る。

すると、裁判官から叱責されました。
『正直、この金額が高いとは思わない。今は1日1万円は稼げる時代、払えるかどうかではなく、払う意思があるかどうかです』
(p.72)

全くその通りとしか言いようがない。 こんな話も出てくる。

機構のホームページでいろいろ調べてみると、経済的困難にある場合には、『返還期限の猶予』という制度が利用できることがわかりました。
(p.73)

裁判になってからの話である。なぜ奨学金の申請時点で、百歩譲って返済開始になった時点で、熟知していて当然の事項を読んでおかないのか。私はこの機構から奨学金を受けていないので常識的に想像するしかないが、この種の重要事項は全て書面で受け取っているはずなのだ。ホームページで「いろいろ調べて」みる必要はないだろう。ちなみに、この節の小見出しは、こんなタイトルである。

猶予の制度を知らない利用者が悪い?
(p.73)

そうだ、その通りだ。当たり前だ。すごく悪い。この人が弁護士に問い合わせたら、

弁護士の回答は『猶予の相談や申請はそもそも奨学生からすべきものだ』という木で鼻をくくったようなものでした。
(p.74)

当たり前のことである。これが借りたお金を返すつもりもないし連絡すらしない無責任な人の感覚になると「木で鼻をくくった」となってしまうのだ。どうみても当たり前の常識的回答だということが、全く分かっていないのである。

多少は同情できる事例も出てくる。父親が失踪、自宅店舗を閉店したがローンが残ったとか、在学中に倒れて脳障害が残ったとか。それにしても借りる側の不手際がないわけではないが、そもそもこの種のレアケースであれば、奨学金を借りていなくても、生活は経済的に破綻していたのではないだろうか。

*

第3章から出てくる現場の話も信じられない出来事のオンパレードである。 高校の先生が、おそらく奨学金の概要すら知らずに手続きを行っている。書類を見てないのか読む能力がないのかは知らない。 しかしもっと恐ろしい話もでてくる。

「多少返済が滞っても取立てがくることなどはなく、お金がある時に少しずつ返していけばそれほど大きな問題にはならない。」
(p.109)

「取立てがくることなどなく」という状態になるから返済が滞っても構わないという感覚が私には理解できない。 本当にこんな教師が実在するのだろうか。それとも、私の感覚がおかしいのだろうか。

生徒の意識もおかしい。

『毎月いくら借り入れをするか憶えてる? 封筒の裏に書いてごらん』
…多くの生徒が書けません。
(p.115)

そのような人間に金を貸す必要があるのか。高等教育を与える必要があるのか。

これに対して“借金をしないと進学できないなら大学に行かなければいいのでは?”“無理をしてまで大学に行く意味があるのか”という議論もあります。
(p.123)

私はこの本を読むまで、ある意味そのような考え方をしていた。無理してまで行く意味はないだろうと考えていた。今は違う。現実はそんなに甘くなかった。ここに出てくるような人達は、大学に行ってはいけない。行くべきではないし、行く資格はない。行かせるのが間違っている。

結論をもう一度書いておく。奨学金は廃止すべきだ。大学に行きたい人は国公立に無償で行けるようにすればいい。 就職したくない、遊びたいので大学に行きたいという人は自分の金で私立大学に行けばいい。奨学金ではなく、民間の金融機関からローンで借りたらいい。

奨学金の利息がどうだとかいう人がいるから数字を出しておこう。400万円を借りて、これを1%の固定金利で借りたら返済総額は440万円程度になる。最新の固定金利は 0.23% のようだ(2017/6/11現在)。これなら約409万円である。ちなみに、民間で借りるとして、仮に金利が5%だとすれば、これは20年間で630万円を返済することになる。

*

余談。

ところが現実には、大学進学率は上昇しています。1990年には24.5%と4人に1人だった大学進学率は、2015年には51.7%と、2人に1人になっているのです。
(p.123)

これは客観的事実だ。ただし、もう一つ事実がある。大学進学率は倍増したが、大学進学者数はそれほど増えていない

数字を示すと、1990年の大学入学者数は約49万人。2015年には約62万人で、増加した人数は約1.27倍に過ぎない。 さらに細かいことをいえば、2000年の時点で既に大学進学者数は60万人を超えている。2000年と15年後の2015年を比較すれば、増加率はたったの3%である。実は大学に進学する人の数は、2000年頃から頭打ちになっていて、横ばいに近い状況が続いているのだ。 このことも頭に入れておいて欲しい。

もう一つ計算しておこう。

仮に毎月12万円を4年間借りたとすると、卒業時には576万円となります。それに利息が加わるので、金利1%、20年返済だとすれば、返済総額は638万5730円、毎月2万6606円(最終月は2万6896円)の返済となります。
(p.139)

だいたい合っていると思う(計算してみたら約3万円違ったのだが、私の計算ミスだろう)。ちなみに現在の金利0.23%で計算すると、 返済総額は589万3927円、毎月2万4558円の返済となる。これがどんなに低金利なのかは、住宅ローンの経験がある人ならよく分かるだろう。ちなみにリボ払いの利率は15%程度だったはずだが…


奨学金」地獄
岩重桂治 著
小学館新書
ISBN: 978-4098252930