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その女アレックス

ピエールっていうと「どこでもいっしょ」をふと思い出してしまうのだが、というのはおいといて、これは推理小説ですね。ミステリですね。だから必然、推理しながら読むわけですが、えっ、そうなの、みたいな展開がてんこもりで訳が分からないまま翻弄されて、最後に「そうきたか」というのが素晴らしい。

推理小説だけに、今回はネタバレになりそうなポイントは全部避けますけど、まずタイトルにも出てくるアレックスですね。これは紹介しなければ。ヒロインです。

アレックスはどんなファッションでもだいたい着こなしてしまう。それはアレックスが美人だからだ。
(p.11)

このストーリーはこの美人のアレックスが誘拐されるところから始まります。探偵役はカミーユ。警部だけど。この小説のキーマン、主人公ですね。

カミーユ・ヴェルーヴェンはめったにどならない。いつも毅然としている。背が低く、痩せていて、しかも禿げているが、肝が据わった男だということは誰もが知っている。
(p.23)

痩せてなかったらポワロって感じかな。でもポワロほど明るい感じはしません。基本、暗い。なぜなら、カミーユは懐妊中の妻が誘拐されて殺されたという暗い過去があることになっていますから、そりゃ暗くなりますね。誘拐事件は死んでもイヤと拒絶するのに、なし崩し的に捜査することになる。署内の様子も実に興味深い。パリも日本のドラマの警察も同じドロドロを感じさせるややこしい職場のようで、嫌いな奴が結構出てくる。登場人物も好感度が高いキャラはあまりいなくて、妙にヘンなのが出てくる。これは途中に出てくる夫人なのですが、

それに、あの魔女のような顔も慣れてしまえばなんとか我慢できる。要するに忘れることだ。夫人自身も忘れることにしたに違いない。欠点とはそういうものかもしれない。ある時点から本人は忘れ、気づくのは他人だけになる。
(p.240)

そういうものかと言われたら、まあそうかな。この小説もクライマックスというか読みどころはやはり、尋問ですね。トークバトル。容疑者をネチネチと攻撃して自白させようとする、誘導尋問ですな。

「証拠があるのかと訊くのは……」とカミーユは続けた。「内容そのものを否定できず、あとは逃げ道を探すしかないときですよ」
(p.362)

論理的にはほぼ無茶苦茶ですけどね、証拠があるかなんていつでも気軽にオーダーしてしまうFAQだし、まあでもねちっこいです。容疑者の心理描写もハッとさせてくれます。

個人的に気になったのが、アレックスが読んでいた本で、

危険な関係』、『谷間の百合』、『赤と黒』、『グレート・ギャツビー』、『異邦人』…
(p.294)

どういう選択なのかな、異邦人で死ぬのはママンのはずだけど、そして、この小説は結構死にます。連続殺人事件。ちょっとキツい描写も出てくるので、そういうのはイヤなら避けましょう。好きなら、暗い部屋で一人でこっそり一気に読んでください。

その女アレックス
ピエール・ルメートル著、橘明美訳
文春文庫
ISBN978-4-16-790196-7