Phinlodaのいつか読んだ本

実際に読んでみた本の寸評・奇評(笑)

悲業伝

順序が前後したけど、四国編の真ん中がこの悲業伝。地球撲滅軍の氷上竝生と左右左危のおばさん二人がさりげに活躍する。内容は面白いけど、アニメにしたらヴィジュアルがどうなんだろ的な。

もう一人この巻でメインを張っているのが手袋ちゃん。おどおどした印象だが、案外ハッキリした性格。

「私は犬よりも猫が好きです」
(p.46)

犬好き相手にこんな返事するのもどうかと思うし、このときは相手が最悪だったから本当にヤバいことになりかけた。実際、世の中の戦争なんて大抵このレベルのことが発端なのかと思ったね。

手袋ちゃんは、基本的に人類のためなんて考えていない。誰かの命を守りたいとも思っていない。むしろ邪魔な人達がいなくなるといいと思っている。手袋ちゃんにとっての究極魔法は「種を滅ぼす魔法」(p.78) だから、つまり、頭のどこかで人類は絶滅していいと思っている。実際、そうなれば案外地球は平和になるのかな、とか思っている人はリアルに案外いるのではないか。逆にいえば、人類が絶滅しない限り、平和な世界など絶対にやってこないという確信。もし地球上に男性2人女性1人だけ残ったとしても、この3人で確実に戦争が起こるような気もする。

この手袋ちゃんの面白いのは、その上でしかも

「戦争が。終わらなければいいと思っている。」
(p.105)

という発想だ。このロジックは単純で、手袋ちゃんの存在価値は戦争がなくなった瞬間に消滅してしまうから。で、この手袋ちゃんが、元美少女【謎】二人と出会う。相手は

まさか二十代後半になって、幼稚園児のときにも着たことがないようなフリルのワンピースを着ることになろうとは、予想だにしていない氷上女史だった。
(p.163)

という状態。ぱっつんぱっつんの魔法少女のコスチュームを着ている大人二人に対して「気持ち悪い」と叫んで全力で逃げ出すのは、まあ当然なんだろう。余計な一言が言えたのが流石だ。ていうか、よくそんな服を着たなと思うが、これは氷上さんの生き方なのだ。

こういう環境に、適応するしかなかったって感じだよね。私は――私はとにかく必死に生きていただけで、思想とか、志とか、信念とか、そういうのはなかったよ
(p.42)

生きるために仕方なく生きる、それが生きるモチベーションになってしまうというのは人類に限らず全動物、全生命体の宿命ではないか。それが最近の日本では崩れてきているような気がしないでもないが。しかし、この後に出てくる、戦争が終わったらどうするかという質問への答はかなり凄い。凄すぎるのでネタバレするのはちょっといけない気がするので書かない。そこまでクールな考え方が出来るというのは炎血の使い手としては意表を突いてきた感がある。

今回、冒頭のキャッチで気に入ったのは、これ。

失敗したとき、「それまでうまくいってたこと」がわかる。
(p.110)


非業伝
西尾維新 著
講談社 発行
ISBN978-4062990172