Phinlodaのいつか読んだ本

実際に読んでみた本の寸評・奇評(笑)

掟上今日子の遺言書

そろそろ毎日紹介するのも無理なんで、雑記に戻りたいんですけど、とかいいつつ今日は「掟上今日子の遺言書」です。

遺言というだけに、今回は自殺未遂事件なのですが、本筋を真面目に説明しても面白くないので今回はチャチャ入れだけに徹します。今回のストーリーは作家ネタということで、まずこんなの。

普段から体験している事件を文字に起こすだけで、何冊だって本が書けるだろう
(p.10)

そんな甘いものではないと思うわけですが、ま、一理はあると思います。ネタがなければどんな表現力を持っていても本は書けないでしょうから。面白い本になるかどうかは別問題のような気がしますね。

空から女の子が降ってくるっていうのは、漫画の世界じゃあ、結構な憧れのイベント
(p.10)

そらのおとしもの」とか、「To LOVEる」がそうでしたっけ。他に何があったっけ。化物語ひたぎさんもそうかもしれませんね。あれ位軽くないと、リアルに落ちてきたら危険です。

極端な話をすれば、僕を容赦なくバッシングする報道を見て、『疑わしい奴はいくら批判してもいいんだ』と思う視聴者もいるかもしれない
(p.30)

ええっ、ダメなんですか?

今日子さんはタクシーに乗るのがNGだそうですが、理由は、

録音・録画をおこなう車内カメラがあるから
(p.64)

最近は犬も歩けば監視カメラに当たると言われている位、どこでも監視カメラドラえもんの声で】がありますが、皆さんはそういう所を通らないように気を付けていたりしますか。録音されていなければギリギリセーフなのかもしれません。

事件現場には、電車で移動することになった
(p.64)

しかも、最近はカメラ付きの車両が増えています。密かに解像度が上がっていて顔認識対応とかされていそうだし。

うっかり、児童向けの柔らかい恋愛小説の名作を読んで、男の子はみんな、優しくて格好よく紳士でレディファーストで王子様なんだと思ったまま社交界にデビューしたら、大変なことになるでしょう?
(p.72)

だから推薦図書にも悪の描写がある、というのですが、少女漫画という成人向けよりエロい世界もあるので大丈夫【なにが】だと思います。

『漫画を読み過ぎると成績が落ちる』という、親がよく言うステロタイプな文言について掘り下げてみれば、これは決して、正しくはない。真実を突いていない。
(p.96)

適切に読むのならともかく、読み過ぎると勉強時間が確保できませんから、成績が落ちるのは真実を突きまくっているように思いますけどね。

死ぬっていうのは、忘れられるっていうことですから
(p.154)

凡人や隠密ならそうかもしれませんが、レジェンドの中には死んでから著名になるなんてミラクルもあるようです。

本当のことを言われるのは、嫌なものですよ
(p.162)

そんなこと言われたら嫌、みたいな。

それって結局、本の影響で自殺に走ったんじゃないかって偏見の、裏返しでしかないじゃないですか
(p.166)

本じゃなくてアニメやドラマの影響の可能性もありますしね。って話ではなさそうですが。


掟上今日子の遺言書
西尾 維新 著
VOFAN
講談社
ISBN: 978-4062197847

星の王子さま

今日の本は「星の王子さま」。ストーリーは説明不要でしょう。紹介するのは、ちくま文庫の、石井洋二郎さんの訳です。

いろんな人が訳していますが、タイトルが「小さな王子」となっている本もあります。これはオリジナルのタイトルが La Petit Prince だからです。星の王子さまというタイトルのキャッチーさは秀逸ですね。

この作品の魅力は、いろんなヒントが得られそうな王子様の言葉と、不条理に満ちた現代社会批判です。

不思議なことがあまり不思議すぎると、さからう気にもなれないものです。
(p.16)

といった考えさせられる言葉がいくらでも出てきます。

何千何百万という星のなかで、ひとつしか咲いていない花をだれかが好きになったとしたら、それだけで、その人は星を見つめてしあわせな気持になれるんだよ。
(p.44)

永野のりこさんの「電波オデッセイ」にそれっぽいセリフがありますね。

登場人物(?)は、王子様の他に、花、わたし、蛇、きつね、その他に王様とか酒飲みとか意外といろいろ出てきますが、蛇は聖書にも出てくる象徴的な動物で、何かそこにも意味があるような気がします。王子様が最初に欲しがるのは羊の絵です。羊も聖書に出てくる重要な動物です。そのあたりの先入観がないと正しく解釈できないような気がします。

心で見ないと、なにも見えない。いちばん大事なことは、目には見えない。
(p.119)

認識論のような世界に入り込んできているような話です。見ようとしないと見えないというのは、イルカさんの歌にも出てきます。

おじさんの星の人間たちって、ひとつの庭に五千本もバラを育ててるんだね……それなのに、自分のさがしているものが見つからないんだ……
(p.133)

王子様は、探し方が悪いと言っているのです。気付かずに見逃してしまうことは、普段の生活ではよくあることです。気付かないのと「無い」のは当事者としては同じなのですが、本当はそこに何かあったのです。

 

星の王子さま
アントワーヌ・ド サン=テグジュペリ
Antoine de Saint‐Exup´ery 原著
石井 洋二郎 翻訳
ちくま文庫
ISBN: 978-4480421609

掟上今日子の退職願

今日は「掟上今日子の退職願」です。4つの短編が入っています。

1つ目は「掟上今日子のバラバラ死体」。バラバラ死体なんて言葉は最近見ませんけど、まあ見たくはないですけど。

一人で持ち上げるつもりがなければ、二人でも持ち上げることはできないというじゃないですか
(p.62)

そんなこと言うかな、と思いましたが、確かにそのような気はします。

2つ目は「掟上今日子の飛び降り死体」。飛び降り死体という言葉は流石に見た記憶がありません。

『あなたの気持ちはわかる』とか『あなたのために言ってるんだ』とか、結局はそんなの『あなた』を鏡に見立てて、自分の意見を投影しているだけなのだ。
(p.77)

情けは人のためならず、って奴ですね。

人は、正しいことをするよりも、不正を正そうとするものだ。
(p.146)

炎上するというのは、この原理が働いているような気がします。

3つ目は「掟上今日子の絞殺死体」。

正しいことをしている人を見るって言うのは――案外、不愉快なものなのよね。
(p.174)

それは自分が正しくないことを再認識してしまうからなのでしょう。

4つ目は「掟上今日子の水死体」。水死体といえば犬神家の一族が有名ですが。個人的にはこの言葉が納得でした。

私は一円もらえれば、一円分、百万円もらえれば百万円分、働くだけの探偵です
(p.237)

ちなみに、私のポリシーは、1円もらえば2円分、100万円もらえば200万円分の仕事をする、なんです。言ってることはカッコイイですが、実際は100万円もらって50万円分の…みたいな気がしないでもないです。

 

掟上今日子の退職願
西尾 維新 著
VOFAN
講談社
ISBN: 978-4062199063

掟上今日子の裏表紙

今日は西尾維新さんの忘却探偵シリーズから「掟上今日子の裏表紙」。裏といえば私ですよね【なにが】。

ところが、この本を読みながら引用したい箇所に付箋を付けていく予定だったのに、結局、読了した時点で付箋が1つしか貼られていません。そんなに印象的なフレーズのない話だっけ。しかも貼ったのが、

どんな行為も、結局のところ、何らかの法には触れている
(p.18)

これですよ。いや、そんなことはないだろ、例えば昼寝したら違法行為になるんですか、みたいなどうでもいいツッコミしか思い浮かばないんですけど。

で、書くことがないから超あらすじを説明しておくと、掟上さんが強殺容疑で逮捕されて、取調室の中で事件を解決する話です。

取り調べるといっても、寝たら全記憶を喪失する相手に対して「お前がやっただろう」と言ったとしても「記憶にございません」としか返ってこないわけで、眠らせないように取り調べるという超人権侵害的なやり方をしないと、寝てしまったら昨日のやりとりはもう忘れているわけですから困ったものだ。

ということで、密室殺人事件で、部屋はオートロックで鍵がかかっていて、中には掟上さんと被害者しかいないという状況です。オートロックなら犯人が被害者を殺してから部屋の外からドアを閉めるという手もありそうですけど。今回最も気になったのは、

コレクションの品質管理のために、展示室内の空気はコンピューター管理されていたようです。硬貨っていうのは、つまるところ、ほとんどが金属ですからね――博物展示の定番として、錆を、つまり酸化を最小限に抑えるためには、当然、室内の酸素量も、最小限に抑えられていたんじゃないでしょうか……?
(p.286)

そこが密室になって、つまり金庫室が犯行現場で、ロックされたら外部から酸素が供給されないので消費し尽くした時点で中にいる人は死ぬ、だから掟上さんは酸素消費量を極限まで減らすために眠った、という話の展開になっているのですが、空気をコンピューター管理できるのなら外部と空気の出入りがあってもよさそうな気もするんですよね、つまり酸素ゼロにはならないような。一体どんな仕組みで酸素量をコントロールしてたんでしょうね。

ま、戯言はおいといて、とりあえずテキトーにその辺から一言持ってきて今回は終わりにします。これから役所に行かないといけないし、時間もないので。

白紙だからこそ、表も裏も同じなのだ。
(p.320)

白紙の紙だって、表と裏がちゃんとあるんですけどね。学校で、画用紙を表裏間違えたら怒られませんでした? 繊維の状態が違うのでしたっけ、絵具の乗りとか違うみたいな。そういえば、両A面のレコードとかCDはありますが、両B面ってあるんですかね。両裏面とかあるともっと面白そうですが。

 

掟上今日子の裏表紙
西尾 維新 著
VOFAN
講談社
ISBN: 978-4062205764

人類最強の純愛 (3)

今日は昨日の続きで、西尾維新さんの「人類最強の純愛」、残りイッてしまいましょう。てなわけで、やっと本のタイトルにもなっている「人類最強の純愛」の紹介です。今回は深海調査の仕事です。道連れになるのは、天才少女の軸本みよりちゃん。割とズバズバ言うタイプのようです。ていうか西尾さんの話に出てくるキャラって大抵そうですけど。

みよりちゃんと潤が潜航中に雑談しているときに、潤がみよりちゃんのことを好奇心旺盛だと指摘すると、

知らないことを、知りたいって思うから、こういう依頼を一も二もなく引き受けちゃうんじゃないの?
(p.141)

こんな感じで斬り返してきます。潤は斬られないですがね。斬られる前に斬るタイプだし。みよりちゃんの次のツッコミは鋭いと思います。

肝心の竜は住んでいないのに、城の名前が竜宮城って、一体全体どういう意味?
(p.159)

確かに言われてみればそうかも。そもそも龍って日本神話的にはどういう位置づけなんでしたっけ。まあいいや。こんなネタも出てきます。

ウナギのつかみ取りを試みて、空まで飛んじゃうような笑い話
(p.182)

掴んだらウナギがスルっと上に抜けてしまって、あわててそれを掴んだらまたスルっと抜けて、というのを繰り返して空を飛ぶんですよね。何の話だっけ?

あらすじとか必要ないですよね(笑)。次いきます。

この本にはさらに2つの短めの短編【謎】が収録されていて、まず1つ目が「哀川潤の失敗 Mission 1. 4321枚の落書き」。絵描きさんの話です。

で、唐突ですが、哀川潤は大食い系だそうです。

その見事なボディラインのどこに、牛一頭以上とも思えるほどの肉が収納されていくのだろう。
(p.187)

うる星やつらのサクラ先生が同じ能力を持っていましたね。体内にブラックホールがあるのでしたっけ【多分違】。強引に話を戻すと、この短編は潤の述懐という形式のお話ですが、その途中で最強に関する話が出てきます。

最強ってのは、別に一番強いって意味じゃねーからなあ――だってよー。一番と二番って、大体似たようなもんだろ?
(p.189)

明確な差があったら、決勝戦が勝負にならないだろ、というのですが。確かに一理あるような、ないような。ぶっちぎりの一位で誰も勝てないみたいなの、たまにありませんかね。

どれだけ差があろうと格差があろうと、互角みてーなもんだよ。勝者と敗者の間に差なんてねえ
(p.190)

張本さんなら「喝だ、喝」とか言いそうですな。2位じゃダメなんですか。もう一つ気になったのは、

あなたが見ている景色と私が見ている景色は、きっと全然別物だろう?
(p.200)

これはよく言われる説ですが、考えてみたら、全然別物である必然性はなくて、全く同じでも構わないような気もしてきました。

ということで、どんな話かはおいといて終了。最後、もう一つの短編が「哀川潤の失敗 Mission 2. 仲間割れ同好会」、ってソレナニ?

仲間割れ同好会の始まりと終わりについて
(p.212)

んなの聞かなくても仲間割れして終わりに決まっているだろ、とか思いつつ読んでしまいました。ま、要するに仲間割れするのではなく仲間割れごっこのサークルなんですね。

ファイト・クラブみたいなもの
(p.218)

狂暴な蟹を何となく思い浮かべてしまいました。体重を奪ってくれるような。それはそうとして、潤は100人のメンバーを抱えるこの同好会をぶっ潰すという仕事を請け負って乗り込むのですが、ある程度の人数をぶちのめしても、誰もギブアップする人とかいない。なぜか。

俺達は俺達で、仲間割れ同好会という一風変わった団体であって、そこにはしっかりと確固たる連帯感があるわけで、逃げるに逃げられないのだ。
(pp.227-228)

何となく分かる。で、潤は99人をぶちのめして仕事完了とするのですが、最後に残った1人が、俺もぶって、というわけです。連帯感ですね。これに対して、潤いわく、

やだよ、面倒臭い
(p.230)

見事に行動最適化されていますね。サービスとかする発想は無いようです。


人類最強の純愛
西尾 維新 著
竹 イラスト
講談社ノベルス
ISBN: 978-4062990745

人類最強の純愛 (2)

今日は先日途中で切っていた、西尾維新さんの「人類最強の純愛」の続きで、この本に入っている2つ目の作品、「人類最強の求愛」です。

いきなりほととぎすネタが出てくるのですが、

『鳴かぬなら殺してしまえほととぎす』なんつって、織田信長が詠んだ俳句として知られているけれど、それが嘘だってことも、同じくらい知られている。
(p.81)

でしたっけ? 信長、秀吉、家康を比較表現した第三者の作品…だったと思っていたのだけど、じゃあ誰の作品かと言われたら全然思い浮かんでこない。鳴かぬなら泣いて頼もうほととぎす、は誰だっけ。

今回、哀川潤が乗った船がいきなり沈没、遭難して、目が覚めたら知らない島にいた、というストーリーです。

さすがに太陽の位置だけじゃあ、現在時刻のあたりはついても(昼頃だ)、現在位置はわからん…
(p.85)

星座とか見えても、せいぜい緯度が分かる程度じゃないのですかね。ちょっと考えてみたがよく分からないです。太陽の位置だけで現在の緯度ってわかりませんかね。とかいいつつ夜になったらなったで、星座が見つからない。

一角獣座とペガサス座を同じくくりにいれたらややこしいし
(p.92)

一角獣とペガサス自体は、一角はひとつのツノがあるし、ペガサスは羽根があるわけで、とても分かりやすいのですが、潤は混乱しているようです。少しパニくっていますかね。その後、何もない無人島から泳いで脱出しようとしますが、元に戻ってしまって、

泳いでいるうちにちょっとずつ方向を見失って、いつの間にかぐるっと折り返しちゃってたってほうが、まだしも納得がいきやすい。
(p.100)

ていうか、個人的には、何のガイドもなくまっすぐ泳ぐ方が無茶苦茶難しいと思うのですけど。一体どうすればそんなことができるのか。私はたまに地下街とかで目を閉じて歩いてみることがありますが、ちょっと歩いただけでも方向が狂ってしまうものです。地下街限定なのは、車が突っ込んでこないことが保証されているからですね。

『請負人』には『負』けるの文字が含まれてる
(p.103)

これは確かに。最強の請負人ってそう言われてみると勝つのか負けるのか。

潤が眠ってしまった後、目を覚まして寝たまま見上げると、十歳の自分に見下ろされていることに気付きますが、お互い無言です。

先に動いたほうが負けってアレ
(p.105)

ソレ何でしたっけ?

で、十歳の自分に、生きていて楽しいかと問われます。

楽しいねえ。楽しいことばっかだよ。
(p.118)

楽しいという言葉の中身が本質的に違うような気がします。その後、老婆に出会うことになりますが、この老婆は何十年か先の自分らしくて、いきなり一撃をくらいます。性格は変わらないようです。この老婆から何があったか訊かないのか問われて、

聞くとうまくいかなそうな気がするし。ネタバレされちゃあ、人生が楽しめなくなる。
(p.123)

どうなるか分からないから人生は面白いのです。ということで、今回は、途中に出てくるナイチンゲールの逸話の間の言葉を紹介して、また一旦切りますが、ん、この話は一体何なのか、ですか? つまり死の淵を彷徨っているいるときに過去や未来の自分と出会うという時空を超えたストーリーなのですね。で、

そのときはそのときで、そのときが主役だ。
(p.128)

いつも今の自分が主役ってことですね。カッコイイです。

(つづく)


人類最強の純愛
西尾 維新 著
竹 イラスト
講談社ノベルス
ISBN: 978-4062990745

無罪

今日は大岡昇平さんの「無罪」を紹介します。

この本は、実際にあった事件とその裁判、特に無罪の判決になったものを13件紹介するという内容です。時代は今から百年以上前のものが多く、当時の非科学的、非論理的な判決に興味津々、と言いたいところですが、今でも状況はそんなに変わっていないような気もします。

「狂った自白」は1660年の事件で、ウィリアム・ハリスンという七十歳の老人が集金に行ったきり失踪します。皆で探していると、血の付いたネクタイと切られた帽子が見つかります。しかし周囲に血痕は見当たらず、格闘した跡もない。死体も見つかりません。そこで容疑者となったのはジョン・ペリイです。以前から不可解な行動でキモいと言われていたのですが、ジョンは兄と母親と共謀してハリスンを殺したと自白します。ジョンの兄と母親は無罪を主張しましたが、

年とった母親のジョアンナは魔女らしく、無口な兄のリチャードは薄気味悪い奴だと言われていた。
(p.109)

という状況下で、物的証拠がないのに、証言だけで三人は死刑になってしまいます。そして、

二年経った。或る日、いまは空虚となった絞首台の傍を通って、一人の旅に疲れた老人がカムデンの村に降りて来た。彼は真直にカムデン家の門へ向った。村人には彼が誰であるか、すぐわかった。殺されたはずのウィリアム・ハリスンだった。
(p.119)

この誤審の後始末がどうなったのかは、本には書かれていません。テヘペロで終わったのではないかと思われます。ペリイ一家は三人全員が死刑になって誰も残っていないので、不服を訴える人はいないのです。

「サッコとヴァンゼッティ」は、1927年判決の事件ですが、犯人とされた二人は無政府主義者という理由で差別的な判決を受けたとされています。宗教や思想で判決が変わるというのは、あってはならないことなのですが、あってはならない、というのは裏を返すと、そのようなことが多々ある証拠でもあります。しかも、この事件は証拠とされている目撃者談が無茶苦茶です。

目撃者の視認証言というものが、あらゆる証拠の中で、最も信憑度の薄いものであることは、今世紀の初めから、英米の裁判所の注意するところとなった。
(p.195)

 個人的に今、特に気になっているのは顔認証等のAIによる判定です。顔認証が誤認式して同一人物だと判定した場合に、それを覆すのは大変難しいのではないかと思うのです。AI冤罪のようなものが発生したら、誰が責任を取るべきなのでしょうか。

 

無罪
大岡 昇平 著
新潮文庫
ISBN: 978-4101065090