Phinlodaのいつか読んだ本

実際に読んでみた本の寸評・奇評(笑)

瓜ふたつ―はぐれ長屋の用心棒

今日は長屋シリーズ【謎】から「瓜ふたつ」。源九郎を向田武左衛門という男が訪ねてきます。瓜ふたつというのは、向田と源九郎が似ているわけです。

向田は、昔、道場で一緒に修行した男です。清水家に奉公していたのですが追い出されたとかいって子供と二人で長屋に引っ越してきます。

これだけでは話も始まらないのですが、殺人事件が発生します。殺されたのは武士。死体を見た向田は、

見ず知らずの者でござる
(p.45)

いつも疑問に思うのですが、「ござる」とか本当に江戸時代の武士は使ったのですかね。それはそうとして、明らかに向田の表情がおかしい。何か隠している。このネタはすぐにバレるのですが、要するにこの裏にあるのはお家騒動です。向田が連れてきた子供は

清水忠四郎さまのご嫡男なのだ
(p.67)

清水家当主の兄の子供だというのですね。ヤバいヤバい。しかも裏事情まで打ち明けたのだから、これは仕事の依頼ということになりますね。最初は、このシリーズにしてはショボい十両という金で護衛を引き受けます。後はいつものパターンですね。長屋が強襲されるが協力して追い返す。相手の戦力を削ぐために討って出る。敵の中に島次郎というのが出てくるのですが、島次郎…

まあいいか。何となくカワイいイメージしか出てきませんが。あと、町医者の玄仙。こういう名前は悪いイメージしかありません。

今回は源九郎と向田が昼にソバを食うシーンを紹介します。午後二時というので遅いランチですね。

ふたりはそば屋の追い込みの座敷に腰を落ち着けると、小女にまず酒を頼んだ。喉も乾いていたので、酒がことのほかうまかった。ふたりで、しばらく酌み交わした後、そばをたぐって腹ごしらえをしてからそば屋を出た。
(p.169)

蕎麦の前に一杯飲むというのが乙ですね。天ぷらと漬物でもあるとなおいいですね~。


瓜ふたつ―はぐれ長屋の用心棒
鳥羽 亮 著
双葉文庫
ISBN: 978-4575663310

風来坊の花嫁ーはぐれ長屋の用心棒(17)

今月も相変わらずの流れで、「はぐれ長屋の用心棒」シリーズから「風来坊の花嫁」。風来坊というと例の青山京四郎。これが貧乏長屋に直接訪ねてきます。次期当主ですから、そんな所に気軽に来る人物ではないのですけどね。何をしに来たのかというと、

「おふたりに、剣術指南を頼みたいのだ」
(p.17)

お二人というのは、もちろん源九郎と菅井です。身分の違いはありますが、知らない仲でもないし、十両くれるというし、あっさり引き受けてしまうのですが、これがまたいろいろお家の中の派閥争いとかあってややこしくなります。特に剣の流派とか、ややこしいですね。皆、オレの流派が一番と思っていますから。

さて、そうこうしているうちに、田上藩の家臣の柿崎がばっさり斬り殺されてしまう。一撃なので下手人は手練です。さらに、死にはしませんが、菅井も斬られてしまうし、菊江も襲撃される。菊江って誰?

これが風来坊の花嫁候補なのです。若様の結婚話なんてのは政略結婚に決まっていますが、今回はお互い気に入っているので問題はない。しかしそれが気に入らない奴等もいる訳ですな。ということで、今回のミッションは、いろいろ邪魔してくる奴を片付けること。菊江も狙われているので守って欲しい。もちろん依頼主は若様ですから、百両ほどポンと出してくるので、簡単に契約成立になります。

ちなみに、はぐれ長屋の連中、大金を受け取るとすぐに十両で飲みに行くんですよね。当時の1両は諸説ありますが、今の金額にすれば10万円程度ですか。100万円で5人で飲むって、キャバクラでぼったくられる感覚か、銀座でママさん囲むか。まあ一晩で飲んだわけでもなさそうですが。

今回の見どころは、まずは御前試合。源九郎に勝負を挑んでくる奴等がいるのです。断ると臆病者ということで、剣術指南にふさわしくないとか言われそう。源九郎的には別にどうでもよさげですが。しかも相手は手強い。手強いと逆に戦ってみたくなる。

源九郎には、こうした戦いを避けるべきではないという思いもあった。剣に生きる者の宿命である。それに、貧乏牢人でこの歳になれば、敗れても失うものはないのだ。
(p.132)

失うものがない人間は強いです。ただ、この御前試合、いろいろ裏があるので試合が面白い。そこは伏せておきます。

試合は何とか勝ちますが、次のクライマックスは秘剣「霞剣」の遣い手、沢田との対決になります。秘剣まで出されては後には引けん【寒】。

どういう対決かというと、菊江様が芝の下屋敷に見舞いに行くことを敵は察知して、待ち伏せて片付ける計画を立てている。そのことを察知した源九郎達が護衛することになります。狙われていると分かっていたらそんな危ないところ行かなければいいのに、絶対に行くということになっている。しかも青山の若様までついていくと言い出す。こうなると源九郎と菅井が同伴しても防げるかどうか。そこで、ちょっとした罠を張ります。

「青山さまと菊江さまには、少々あぶない橋を渡ってもらうことになるが」
(p.227)

これに皆が乗っかってしまうから、ほんまにいいのか、って感じもしますけど。ま、それなりの策ではあります。

最後、全部片付いたところで、また若様が長屋にやってくる。何しに来たの、そういう身分じゃないでしょ、といいたいところだが、菅井と将棋をするという。しかも意外なリクエストがあって、源九郎がおふくを呼びます。

「青山さまがな、おふくの煮染が、食べたいというのだ」
(p.279)

武家屋敷には庶民の味付けの食べ物はないのでしょうね。しかし煮染なんて、すぐにできるモノじゃない。おふくとしては食べさせてあげたいのだが、ないものはない。しかぁし、源九郎は店で買ってこいといいます。

「田村屋の煮染でいいのだ。青山さまに、味は分からん」
(p.280)

青山様、騙されてますぜ(笑)。

「おふく、この長屋で煮染を馳走になったこと、生涯忘れぬぞ」
(p.282)

何か重要なところでミスっているような気もするけど、おふくはまんざらでもないようだし。個人的には糠漬けでも所望して「このお漬物がっ!」位は言って欲しいところですが。今は若様ですが、当主になるともうここに来ることはできないから、挨拶代わりに来たらしいのですね。粋な若様なのです。


風来坊の花嫁ーはぐれ長屋の用心棒(17)
鳥羽 亮 著
双葉文庫
ISBN: 978-4575664171

八万石の風来坊―はぐれ長屋の用心棒

最近コレばかりですが(笑)、今日は「はぐれ長屋の用心棒」から、「八万石の風来坊」です。

いきなり、娘さんが悪い奴等に囲まれているシーンです。そこに助けに入った武士っぽい若い男が何か情けない。源九郎が近付いてみると娘は同じ長屋に住んでいる、おふくちゃん。源九郎は軽くチンピラをやっつけておいて、武士はどうなっていてるかと見てみると、刺されたわけではなくて、腹が減って動けないという。

それがし、青山京四郎と申す。
(p.17)

おふくは、助けてくれたお礼に長屋に来てくれといいます。

源九郎は、助けたのはおれではないか、と胸の内でつぶやいたが、
(p.18)

そう思いつつ、長屋に誘ってメシを食ってもらうのが大人の対応です。表もあれば裏もある。しかしこの武士、誰? 食う金もないのですが、長屋にしばらく住みたいといいます。店賃(家賃)は払えるのかと問い詰めると、脇差を手渡して、

「初代是一だそうだ」
(p.34)

是一という名刀は実在しています。これを売って金にしろというのです。

地肌は、黒味を帯びて澄んでいた。刃文は是一の特徴と言われている大丁子乱れである。
(p.34)

ということで、長屋に居座ってしまうのですが、何でそんな宝物を持っているのか。

今回のラスボス役は村上泉十郎。迅剛流の達人です。これが京四郎を殺しに来るのですが、そうはさせじと源九郎との勝負になります。最初に立ち合ったときは、お互い浅い傷を負います。源九郎は村上には勝てそうだが、その間に他の敵が京四郎に向かってくるのはまずいと考え、村上にここは引けと促します。仕切り直した方が、お互い得策だろう。

「おぬしとは、このような見物人のいないところで、立ち合いたいものだ」
(p.100)

引けといわれてあっさり引くのは武士としては納得できない状況ですが、このように言われると面目も立つのでしょう。村上は一旦引きます。

さて、何でそういうウロンな奴等が京四郎を襲うかというと、

京四郎君は、羽州、田上八万石の若君であられるのだ
(p.108)

若様だったのですね。ということで、八万石の風来坊というタイトルなのですが、それが何で一文無しで江戸をウロウロしていたかというと、逐電したというのです。逃げたのですな。

この若様、若様だけあって、何かズレています。庶民の感覚がないというのもありますが、かといって偉そうな態度でもない。いいキャラです。源九郎の腕に仰天した護衛の藩士達は、護衛を依頼します。金が出てくれば用心棒達の出番ですね。

若様の居場所はバレバレで敵襲必須なのですが、凄腕の源九郎や菅井が守っていれば動かない方が得策だろう、ということで待ち構えていると、敵が案外多くて慌てたりしますが、このままではジリ貧とみた源九郎達は、いつものパターン、こちらか撃って出る作戦。ちょっとずつ相手を片付けていけばこちらが有利な状況になっていくわけです。

最後は利根川で大決戦になるのですが、結局戦力は互角。マトモにやればどちらも死者多数という予想の中、

「何か手はないのか」
(p.256)

と青山がいうと、源九郎は、

「手はあるが……」
「あるか!」
(p.257)

ないと話になりませんからね。

 

八万石の風来坊―はぐれ長屋の用心棒
鳥羽 亮 著
双葉文庫
ISBN: 978-4575663945

袖返し―はぐれ長屋の用心棒

これはシリーズ2作目。今回はシリーズではレギュラーのお吟の話。袖返しというのは掏摸(スリ)の技の名前です。

この技を袖返しと呼び、掏摸の仲間うちでは袖返しのお吟の名でとおっていた。
(p.15)

どんな技か、この前に細かく説明が書いてあるのですが、細か過ぎて引用も説明も面倒なので、興味のある方は本を確認してください。要するに袖が返るように見える技なのです。

お吟は源九郎から掏ろうとして失敗して逆に捕まってしまうのですが、町方に引き渡すのも面倒だと思った源九郎は見逃してやります。それからお吟は掏摸をやめ、父親の栄吉と浜乃屋という料理屋を始めて今日に至る、というわけです。ちなみに、栄吉も元は掏摸です。

さて、お吟は足、いや、手? を洗ったのですが、ひょんなことで掏摸を探している武士に捕まえられそうになります。これをたまたま通りがかった(笑)源之助が助けてやるのですが、この武士が、源九郎の旧友だった武士と一緒に長屋にやってきて、掏摸を探していた理由も伝えて、我らでは手に負えんということで、華町に仕事を依頼するわけです。手伝う義理はないですが、手付の十両を目にすると俄然やる気が出る。

ところが、少し探っているうちに、お吟の父親の栄吉が殺されてしまいます。怖い相手です。

今回の見どころですが、元岡っ引きの孫六が、元掏摸の喜八に話を聞きに行くシーンが面白い。喜八は反物屋で働いているので、孫六は客を装って反物屋に入って、お互い、見た目は反物を品定めしているように見せかけながら、裏世界の情報を仕入れている。最後に、

「むかしの親分らしくて、ほっとしやしたぜ」
喜八が目を細めて言った。
「おめえも、老け込むのは早えぜ」
(p.106)

ここで get した情報は、転びのお松という女掏摸の情報。これが今回の黒幕です。つるんでいるのは常蔵。とても悪い奴です。ところがこの常蔵が最後まで暴れて源九郎に斬られるパターンかな、と思いきや、あっさりと死体になってしまう。

源九郎達がお松の住処に踏み込んでみると、子分と一緒に既に死体になっていたのです。先回りして口封じした奴等がいる訳ですね。ていうか、お松は常蔵を見限って武士に殺させておいてトンズラしたんですね。

最後はお松の隠れ家も突き止めますが、源九郎は無茶苦茶な手に出ます。

「今夜、お松の家に火をかける」
(252)

火付は死罪のはずなんですが(笑)。まあ単にボヤですませる計画で、実際それで済んでいます。火をつける理由は、火事になれば一番大切なものを持って逃げるはず、つまり掏り取ったモノを持って家から出てくるからです。そこをお吟が、

「あたしが、お松のふところから抜くよ」
「掏り取るというのか」
(p.254)

女掏摸対決ですね。今回のクライマックスです。

「やるよ。あたしの腕をお松に見せてやる」
 お吟はそう言うと、右袖をたくし上げて、手首に結んであった赤い糸を歯で噛み切った。栄吉がお吟の右腕を封印した糸である。
(p.255)

封印は解かれた!


袖返し―はぐれ長屋の用心棒
鳥羽 亮 著
双葉文庫
ISBN: 978-4575661736

はぐれ長屋の用心棒―華町源九郎江戸暦

今日は「はぐれ長屋の用心棒」、華町源九郎 江戸編、つまりこのシリーズの1作目です。やっと1作目が出てきました(笑)。文庫本表紙で子供と一緒に走っているのは菅井ですかね。

出だしはこんな文です。

軒下から落ちる雨垂れの音が聞こえる。
(p.7)

クイズ「東大王」の問題に出てくるかもしれませんから覚えておきましょう。最初は長屋の様子が描かれ、その後に源九郎と菅井のコンビが登場します。

源九郎は五十五歳。五十石の貧乏御家人だったが、倅の俊之介が、君江という嫁をもらったのを機に家督をゆずって家を出たのである。
(p.9)

核家族化しているわけです。ちなみに菅井は四十八歳という設定ですから7歳年下なんですね。

はぐれ長屋は、本所相生町一丁目にあった。堅川沿いの通りに並ぶ表店から細い路地を入った先にあり、裏手には回向院の堂塔の甍や相輪などが、町家の家並のみこうに見えていた。
(p.11)

最初の事件は川で死体が見つかったという事件から始まります。拷問の跡があります。なぶり殺して捨てたと見るのですが、源九郎は死体が堅川で見つかったことに疑問を持ちます。捨てるのならもっと大きな川にすべきだろうというのです。

その後、死体の子供らしき男の子が迷子になっているのを源九郎が見つけます。名前は吉松。吉松を長屋まで連れて行ったところ、謎の武士が現われ、関わるなと警告するのですが、これは軽く返り討ちにします。源九郎は鏡新明智流という設定ですが、

この流は桃井八郎が開創したもので、安永二年に江戸日本橋茅場町志学館と称する道場をひらいて流名をひろめた。桃井春蔵が二代目を継ぎ、南八丁堀大富町蜊河岸に道場を移した。
(p.41)

志学館は江戸三大道場の一つで、実在していました。興味のある方はググってみてください。

第二章は、菅井が登場します。

菅井は、田宮流居合の達者だった。
(p.61)

このシリーズでは毎度お馴染みの光景ですが、菅井は竹片を投げさせて居合切りで斬るという芸をやって小銭を稼いでいます。場所は西両国の広小路なのですが、

芝居小屋、水茶屋、床見世などが建ち並び、西瓜、飴、植木売りなどがいたるところに露店を出し、子供相手の風車、手車、無視、亀などの物売りが声を張り上げ、店の隅では大道芸人が客を集めている。
(p.60)

なかなかの雰囲気です。

さて、菅井は見つかった死体、藤八郎というのですが、情報を集めているとチンピラに囲まれてしまいます。もちろん軽くあしらって、軽く腹を切ってやったので動けない奴から話を聞き出しますが、尾行されてピンチ。

さてさて、途中ごっそり省略して、源九郎たちが匿っていた吉松を敵は本気で拉致しに来ます。この時、菅井が相手にするのは深尾惣八郎、なかなかの腕というか、何と菅井が負けてしまいます。もっとも、腕は深くえぐられましたが、斬り落とされたわけではない。深尾は命まで取る気はないらしく、吉松を拉致してトンズラです。

この後の展開はグダグダで、よくある展開というか、源九郎達はかなりあくどい手口(笑)で相手を片付けてしまいます。このシリーズの特徴として、特に他の娯楽系時代物と違うのは、イイモノ役が結構ズルいというか、ちょい悪いことをする、ということろで、金をもらわないと本気で仕事しないとかもそうですけど、そこが逆にリアルで何か面白いわけです。最後のお約束のラスボスバトルは、源九郎と深尾が戦います。深尾は最後まで絵にかいたような武士なのが、何か悪役なのにどうも憎めないです。


はぐれ長屋の用心棒―華町源九郎江戸暦
鳥羽 亮 著
双葉文庫
ISBN: 978-4575661576

仇討ち居合-はぐれ長屋の用心棒(38)

今回は「はぐれ長屋の用心棒」シリーズから「仇討ち居合」。38作目は、菅井大活躍です。菅井が居合の見世物をやっていると、きよという武家の娘に勝負を挑まれてしまいます。親の敵だというのですが、冗談じゃない。

「おれは、おまえの親を斬った覚えはない」
「見苦しいぞ」
(p.16)

これでは話にならない。ていうか菅井、結構いろいろ殺しているから、その中に親がいても不思議ではないような気もするのですが、娘を返り討ちというのも大人げないし、関係ないからと逃げるのですが、娘もしつこくて、助太刀まで連れて斬りにくる(笑)。

誤解はなんとか解けるのですが、そうなると今度は居合を教えてくれとか無茶を言い出す。

一年や二年、居合の稽古をしても、それで相手を仕留めるほどの腕にはならないだろう。
(p.46)

一流になるには何年かかるのでしょうか。プログラマーだと15年とかいいますけど。ま、1年や2年ではモノにならないというのは、どんな世界でも同じはずです。

きよの父親が斬られたのは、呉服屋の利権争い、御用達の話が裏にあります。いつものパターンです。攻略パターンもいつも通りです。塒(ねぐら)を突き止めて誘き出して拉致して情報を吐かせる。武士なのに卑怯な手を使うというのが面白い。しかも真打が出てきたらいきなり尋常な勝負になるところも面白い。ま、臨機応変です。

さて、この話、黒幕は旗本の水田浅右衛門。身分が身分なので、

屋敷にこもっている者を、捕らえることはできまい。
(p.213)

浪人が身分の高い武士の屋敷に討ち入りするなんて、常識的に無理というのですが、

「敵討ちということにしたらどうでしょうか」
(p.213)

その屋敷には、きよが親の敵として狙っている相手がいる。だったらそれを名目にして乗り込んで討ち入ってしまえというのです。

「十二の娘が、敵を討てるのか」
(p.214)

魔法少女でもなければ無理でしょうね。実質的には長屋の面子が片付けてくれるのを期待して、とりあえずエラい人達はこの話に乗っかってラスボスとの戦いになります。

もちろん、先に書いたように、剣豪相手に十二の娘が一年や二年修行したところで勝てるわけがない。そこで菅井がきよに授けた技が面白いです。まず、とにかく間合いを見切らせるわけです。斬られる範囲には近寄らない。刀が届かなければ少なくとも負けはないですからね。そんなことが本当にできるものかどうかは知りませんが、理屈としては個人的にはほぼ納得です。私なら刀投げるかもしれません。子連れ狼の拝一刀がやってましたね。武士の魂を投げるとは卑怯なり、みたいな感じはありますが、冥府魔道に入ってしまえば何でもアリです。

ま、結局は少女レベルの剣ではどうにもならず、菅井の出番、というのはお約束みたいなものです。


仇討ち居合-はぐれ長屋の用心棒(38)
鳥羽 亮 著
双葉文庫
ISBN: 978-4575668063

すっとび平太-はぐれ長屋の用心棒(25)

今日は「はぐれ長屋の用心棒」シリーズ25作目、「すっとび平太」。今回殺されるのは、はぐれ長屋の住人、大工の益吉。亀楽というシリーズではお馴染みの居酒屋で飲んでいるところを何者かに殺されます。益吉の弟の平太は、兄を殺した下手人を捕まえたいと思い、長屋の孫六に子分にしてくれと頼みこみます。孫六は嫌がるのですが、

「おれは知ってるぜ、孫六親分は、番場町の親分と呼ばれた腕利きの御用聞きだったはずだ」
(p.31)

そう言われるとまんざらでもない。孫六は足を悪くして岡っ引きを引退しつつも、何かあったら探索に加わるというキャラです。対照的に、平太は足が速い。それですっとび平太という呼び名になのです。ばくはつ五郎【誰】みたいな?

この話、最初は兄殺しの犯人捜しでしたが、実は料理屋の縄張り争い。益吉は料理人殺しのとばっちりで殺されてしまった。松波屋という店が、ライバル店を潰す目的で、他店の評判のいい料理人を殺し屋を雇って消したわけです。

源九郎達は、最初は仲間の敵討ちということでほぼ無償奉仕で動いていますが、被害を受けた料理店の主から百両で仕事を依頼されて、俄然やる気が出る。何するにも金がないと厳しいのは昔も今も同じようです。

しかし相手も悪い奴だけに黙っていないわけで、喜楽に仲間が集まったところに襲撃する。この時、源九郎と菅井という遣い手は喜楽にはいなくて、長屋で将棋を指しているから大ピンチです。ここですっとび平太の出番で、大急ぎで長屋まで走って二人を呼んできます。何とか間に合った二人は、喜楽で凄腕の殺し屋と勝負ということになります。

今回の凄腕は竹本甚兵衛。名前を呼ばれたところで、

「名を知られたからには、生かしてはおけぬ」
(p.197)

リアクションは三流ドラマみたいに凡庸ですが、腕はいい。ただ、もう一人の牢人とやり合っていた菅井が相手を倒したところで、

「勝負はあずけた」
(p.201)

変わり身の速さも尋常じゃない。逃げた。ていうか生かしておけないという話は一体どこ行った?

今回のラスボス的なのは佃の久兵衛。職業はインキュベーター、ではなくて、高利貸しとか賭場を開いたりとか、パターン通りの悪人ですが、腕は普通の悪い奴、って感じでしょうか。コイツが竹本を雇っているわけですね。

さて、話変わって、江戸の描写ですが。

両国広小路からすこし大川の下流に歩くと、薬研堀にかかる元柳橋があった。この橋は柳橋と呼ばれていたのだが、神田川の河口にかかる橋が柳橋と呼ばれるようになったため、元柳橋になったとか――。
(p.82)

マップで調べてみると、神田川から墨田川に合流するあたりに小さな橋がかかっていて、これが今でも柳橋と呼ばれているようです。薬研堀というのは埋め立てられてしまい、現存しません。元柳橋もないようですが、そこに大きな柳の木があったので柳橋と呼ばれていたそうです。幽霊でも出そうな感じですね。


すっとび平太-はぐれ長屋の用心棒(25)
鳥羽 亮 著
双葉文庫
ISBN: 978-4575665741