Phinlodaのいつか読んだ本

実際に読んでみた本の寸評・奇評(笑)

雑記 (THE BIG ISSUE Vol.320 特集「夜間中学」)

今日紹介するのは、THE BIG ISSUE。ホームレスの人達が街頭で売っている雑誌です。タウン誌的な感じの小冊子です。ホームレスの人達を支援するという目的で作られているので、流石に Amazon では手に入らないです。 今回 get したのは、Vol.320、2017.10.1号。特集「夜間中学」です。

「夜間中学」を知っていますか? そこで外国籍の人が約8割、出身国も約28カ国の人が学んでいることを。
(p.07)

外国籍の人が8割というのは全く知らなかったです。

夜間中学は激減して今31校しかないそうですが、市民が運営する「自主夜間中学」というのがあるらしい。これも知りませんでした。そして、この号は自主夜間中学の特集です。埼玉県の川口自主夜間中学、千葉県の松戸自主夜間中学校、福岡県の自主夜間中学「よみかき教室」が紹介されています。

外国籍の生徒が「中学卒業の学歴がないからと、最低賃金を大きく下回る時給で働かされている」現実もある。
(p.08)

いろんな意味でよくないような気がします。確かに時給って学歴ごとに決まってますよね、中卒未満ってどういう基準になるのか。

遠方の生徒にはスカイプやメールでも授業を行っている。
(p.09)

これはITっぽくていいですね。

出てくる事例がどれもスゴいのです。校則に反発して不登校になった男子が牧場主になるとか、ドラマみたいな話が出てきますが、20年ぶりに外にでたひきこもりの男性の話って、

有名大学出身で40代になった彼に積分を教え、駅前の立ち飲み屋に誘うと注文の仕方もわからない様子だった。
(p.11)

何があったんですかー。我々の世界へようこそ、みたいな。何か面白そうというのは不謹慎かもしれませんが、世の中いろいろあります。60代の人が4年間かけて中学校の卒業認定試験に合格した話も驚きました。高卒認定は知っている人も多いかもしれませんが、中卒認定って知ってました? 不勉強なもので、私は知りませんでした。

個人的には、このようなニーズが本当に多いのなら、もっとITを駆使してインターネットで学ぶ機会を増やすべきだと思います。インターネット大学は一時期話題になって、これからも発展していくような気がします。インターネット小学校ってないのでしょうか。


THE BIG ISSUE JAPAN
BIGISSUE日本版

ヒッコリー・ロードの殺人

推理小説率が最近高いようですが、今回はアガサ・クリスティーさんのポワロが出てくる作品から、ヒッコリー・ロードの殺人。

ヒッコリーロード26番地の寮で殺人事件が起こります。名探偵ポワロがこれに挑むことになりますが、その前にポワロは寮で発生している奇妙な盗難事件に悩むことになります。盗まれたものは次の通り。

夜会靴(新しい靴で、片方だけ)
ブレスレット(イミテーション)
化粧用のコンパクト
口紅
ダイヤモンドの指輪(スープ皿の中から発見された)
聴診器
イヤリング
シガレットライター
古いフランネルのズボン
電球
箱入りのチョコレート
絹のスカーフ(ずたずたに切られているのが発見された)
リュックサック(右と同じ)
ホウ酸の粉末
浴用塩
料理の本
(pp.16-17)

このリストを示されて、ポワロは「おめでとう」と言うのですが、並の感性ではなさそうですね。わけがわかりません。ポワロと学生達のジェネレーションギャップも面白いです。いろいろ話がズレてしまいます。しかしポワロは寛容です。

わたしの若いころには、若者たちは小人に神智学の本を貸したり、メーテルリンクの『青い鳥』について議論したものです。
(p.83)

青い鳥の議論は私も若い頃にしましたね。日本では子供向けの絵本で読んだ人が多いかもしれませんが、実はなかなか奥が深い物語です。ところで、ポワロの出てくる推理小説は、会話の駆け引きのようなものがやはり絶妙で面白い。犯人は誰なのか。怪しい人が多すぎるので、シャープ警部が

結局人殺しのできないやつはいないということですか
(p.143)

と言うと、するとポワロは、

わたしはしばしば、そうじゃないかと思うことがある
(p.143)

とかいう。そういえば「カーテン」を読んだのはいつだったかな。クイーンの四部作を読んでいたからかもしれませんが、犯人を当てました。

ハバード夫人との会話も絶妙です。

でも、こんなことは、あなたには興味がないでしょうね
(p.230)

と言ったらポワロは、

わたしはすべてに興味がありますよ。
(p.230)

とかいう。ああいえばこういう、みたいな感じですね。。

ところで、この話では結局 3人も殺されてしまうのですが、私の思うに、最初にポワロが寮に呼ばれて講演した後にこんなことを言っています。

とにかく、いまただちに警察を呼ぶべきです。一刻も猶予すべきではありません
(p.68)

こんなこと言わなかったら誰も死ななかったんじゃないですか? 実は真犯人はポワロで完全犯罪成立なのでは。


ヒッコリー・ロードの殺人
アガサ・クリスティー
高橋 豊 翻訳
ハヤカワ文庫
ISBN: 978-4151300264

雑記

今日紹介したいのはモーニング2017年45号。まず「喃風と空永」。第5回 THE GATE 大賞受賞作です。刀鍛冶の物語。モーニングには珍しい劇画調のマンガです。

個人的には刀がもう少し斬れる感じで描かれていたら迫力が倍増したような気がしました。刃の鋭さというか、キレが微妙かなと。最後のクライマックスのシーンで喃風が素手で焼き入れをした刀を掴んでいるように見えるのですが、手が焼けないのですかね。火事の中だからそれどころではないのですが。

「おこだわり」はピノ。「ピノろう」なんて言葉、初めて見ましたよ。思わずピノを買っちゃいました。

 

 

傷物語

今日は西尾維新さんの物語シリーズから「傷物語」です。

出だしのパンチラというかモロに見えるシーンは有名です。

羽川のやや眺めの、膝下十センチのプリーツスカートの前面が、思い切りめくれあがってしまったのだ。
(p.16)

アニメ「化物語」の初回がいきなりこのシーンですね。ツカミとしては秀逸かもしれませんが、現実世界ではこんなうまい話はありません。私もここ十何年の間で2回しか見たことがありません。しかもそのうち1回はオーバーパンツでガードしてたし。そもそもパンチラでツカむなんて発想そのものが、

なんっつーか、八〇年代のラブコメ漫画みたいな感じだったもん。
(p.36)

これではありませんか。ありませんかとか言われても困るかもしれませんが、80年代ってどんなのあったっけ。

まあこの話、表から見ればキスショットほにゃららという吸血鬼と阿良々木くんの話のように見えますが、実は裏から見たら羽川メインみたいな構成になっています。東京大学物語みたいに最後は夢オチにされてもおかしくない感じで、物語は全部、羽川さんの夢だった、みたいな。羽川さんといえば、

「……お前は何でも知ってるな」
「何でもは知らないわよ。知ってることだけ」
(p.158)

この決め台詞も出てきますけど、

相手のために死ねないのなら、私はその人のことを友達とは呼ばない
(p.292)

こんなことを言えるのは、結構熱いですね。熱血。極論派みたいな感じです、羽川さん。

もちろん、忍野さんもいい仕事してます。

「礼なんていいよ。きみが一人で助かっただけさ、阿良々木くん」
(p.87)

いつもの決め台詞です。言ってることとやってることが一致しているかどうかは知りませんが。なかなか食えない男なので。

「助けない。力を貸すだけ」
(p.97)

ていうか、利用しているような気もするわけです。しかし、この忍野さんはストーリーの中ではロンリー派、いや、理論派です。奥が深い言葉もたくさん言ってくれます。例えば、

噂で判断しちゃあいけないね――相手が人であれ、人でないものであれ。
(p.95)

個人的には、相手が誰という情報をできるだけ判断に加えないようにしています。大学教授だろうが幼稚園児だろうが、正しいことを言えば正しいし、間違ったことを言えばそれは間違いなのです。善悪についても深い言葉が出てきますね。

正義の定義は人それぞれさ。他人を簡単に否定しちゃあいけないよ――きみにとっては悪党だったというだけさ。
(p.230)

もう一つ忍野の思想が見え隠れするのが「被害者ヅラ」という表現ですが、

「自分を被害者だとか、そんな風に思うなよってことさ、被害者面は――気に入らないぜ」

こんなセリフが出てきます。自己責任って感じなのかな。加害者とまでは言わずとも、おとなしくしてたら何も起きなかったでしょ、みたいな。

奥が深いといえば、キスショットのこの言葉はナルホドと思いました。

まあ吸血鬼は厳密には生物ではないがのぅ、
(p.103)

既に死んでますからね。いわば死物でしょう。undead というのは死者なのかというと議論になりそうです。

ところで、私はこの小説の英語版も持っています。

「じぁあお前のダカラが目当てだったんだよ!」
(p.140)

私はポカリする方が好みですが、これ一体英語だとどうなるんだ、と思って買ってしまったわけです。ちなみに、

"Then I was only after your toddy!"
(KIZUMONOGATARI WOUND TALE, p.137)

こんな感じです。


傷物語
西尾 維新 著
講談社BOX
ISBN: 978-4062836630

KIZUMONOGATARI: Wound Tale (英語)
NISIOISIN 著
Vertical
ISBN: 978-1941220979

狐笛のかなた

守り人シリーズを途中まで紹介していますが、今日の本は守り人シリーズの作者である上橋菜穂子さんの作品です。

主人公の小夜はひょんなことで怪我をした狐を助けます。狐の名前は野火、妖狐で使い魔です。小夜は実は能力者で、立場的には敵同士なのですが、野火は命の恩人である小夜と戦うことはできず、主を裏切って小夜の味方になってしまうので、話がややこしくなります。

ファンタジーですが、最初から最後までベースになっているドロドロとした憎しみの連鎖は、守り人シリーズとどこか似た感じがありますね。

すべて生き物は、生まれて、死ぬ。それだけなのだから。
(p.127)

このような思想も何となくそれっぽい。しかし結局それだけではないような話ですね。ちなみに、狐笛というのは、

このなかに霊狐の命を吸い、使い魔を自由に操る技も教えてやろう
(p.363)

というようなアイテムです。野火はこれで操られているのですが、最後のバトルシーンの後で、なんということでしょう、的な使い方をすることになります。

見られてはだめよ。
(p.149)

見られたら死ぬという話は以前紹介したレベル99にも出てきましたよね、98だっけ? 忘れた(笑)。このような背景が何となくジャパニーズファンタジーな気がします。

狐笛のかなた
上橋 菜穂子 著
新潮文庫
ISBN: 978-4101302713

月光ゲーム―Yの悲劇'88

今日は推理小説です。月光ゲーム。月に吠えるわけではありませんが。何となく月といえば狂気のイメージが。

「僕も夜型人間やから判るよ。月の光が窓辺にさすと心の平安が訪れるっていうことか」
「違うの。月の光は人間を解放してくれるんやなくて、呪縛するの。人は月に踊らされて狂気に駆り立てられると信じてるわ」
(p.61)

私の好きなアルバムに Camel の Moonmadness というのがありますが、プログレ

ルナという人物が一番スゴいです。本名はルミなのですが、とにかくセリフが奇天烈で、ハルヒに出てくる長門さんを想像します。あれは人間じゃないようですが。

太陽とその他の惑星が創った月成長のエネルギーは、地球表面を覆う有機生命体の膜に貯蔵される。
(p.111)

というのはおいといて、本格推理小説です。何が本格かというと、ちゃんと読者への挑戦状が出てきます。ちなみに著者の有栖川さんはクイーンにハマっているという話が解説に出てきます。

先に紹介したセリフからも分かるように、関西弁が出てきます。特に京都。

神戸も好きやけど、やっぱり学生の街って京都でしょ? 勉強のことや人生について考え込んだりするのに、哲学の道や鴨川の川べりが最高の場所みたいな気がして。
(p.79)

登場人物は大学生。サークルの面子でキャンプに行くという設定になっています。そこで火山噴火に巻き込まれて、事実上の密室状態で殺人事件が多発します。つまり、犯人はその中にいるわけです。本格推理小説だから、実は最後に知らない人が出てくる…みたいなことはありません。

この小説、少しヘンな人が多いようですが、ルナ以外にヘンなキャラだと思ったのは武ですね。

俺以外の人間は本当に実在するのか?
(p.244)

誰か、実在しないと言ってやればよかったのに。神聖宇宙中央委員会とか出てくるのだし、この世は全て夢、幻で上等なのです。

まあとにかく本格的です。ストーリー中に何枚かヒントになる写真や図が出てきます。ただ、最初に出てきたダイイングメッセージは、個人的にはちょっとわざとらしい感じがしました。


月光ゲーム―Yの悲劇'88
有栖川 有栖 著
創元推理文庫
ISBN: 978-4488414016