Phinlodaのいつか読んだ本

実際に読んでみた本の寸評・奇評(笑)

九尾の猫

昨日は本格的ミステリーがほにゃらら、みたいなことをうっかり書いたので、じゃあ本格的ミステリーってどうよ、ということで紹介しましょう、エラリイ・クイーン著、九尾の猫です。日本だと九尾はに決まっているけど、この話はヌコです。化物の話ではなく本格ミステリなので、夜な夜な猫が出てきてエナジードレインしたりはしません。猫というのは犯人のコードネームで、ちゃんと殺します。人間が死んでいきます。連続殺人事件です。

もちろん本格ミステリーなので、真犯人を特定するヒントは本文に全部出てくる。でも本格的だから、注意深く読まないと気付かないように出てきます。p.143 の図なんか面白い。どこが面白いか書くとネタバレになるので書きませんが。なお、私は1978年初版発行の24刷の大庭忠男訳を持っているので、新訳だとページが違うはずです。今回引用するところは、全て大庭訳のページになるので、予めご了承ください。Amazon にリンクしておきますが、多分 kindle版の方です。私が持っているのは紙の文庫本です。

謎解きの舞台はウイーンに移ります。エラリイは精神病の権威であるセリグマン教授と会話します。エラリイって作者の名前じゃないの、と思った人がいるかもしれないけど、エラリイ・クイーンさん名義の推理小説には同名のエラリイ・クイーンという探偵がよく出てきます。本の紹介には「犯罪研究家」と書いてあるけど。

セリグマン教授、それは精神年齢が五歳以上の者ならだれでも納得させることができる事実にもとづいています」
(p.378)

犯人は5歳の思考力があれば分かるよね、と読者にケンカ売ってます。ただし、この作品には、エラリイ・クイーンさんの他の作品によくある「読者への挑戦状」は出てきません。これについて書き始めるとネタバレになってしまいそうなので、書かないことにします。それだけでも大ヒントっぽいですけどね。

このストーリーにはいくつか山場があります。一つは猫が捕まらないことに恐怖して市民がパニックになるところ。犯人が殺した人数の何倍もの人間が、群集心理由来のパニックで事故死してしまう。この後の回想シーンで、

今の世のありさまは、ずっと昔、宗教が生まれかけたころのことを思い出させる。
(p.184)

人間ってわけのわからない行動をわけのわからない権威に頼ろうとしますよね。

そして、昨夜の不幸な出来事で実証されたように、群集の思考力はきわめて低い次元のものだ。君たちは無知でいっぱいだ。
(p.185)

最近これを痛感したのが某復興大臣が辞任した「よかった」発言。本とは関係なので細かいことは書きませんが。

ところで、次のセリフはよく分からなかったな。

世界中でユダヤ人がいちばんたくさん住んでいる都会でユダヤ人を一人も殺していない
(p.212)

何かヒントになっているのかもしれません。全て謎が解けてから読み直しても謎。何かニューヨーカーだと自明な慣習とかあるのかな、そういうところは国による文化とか宗教とかの常識レベルの知識の違いがあるのでしょう。

さて、私はITの仕事をしているので、最後の謎解きの後で教授の言う言葉が深くていい感じですから、それを紹介して今回は終わりにしましょう。

君は前にも失敗した。今後もするだろう。それが人間の本質であり、役割だ。
(p.403)



九尾の猫
エラリイ・クイーン著
ハヤカワ文庫

大庭 忠男 訳
ISBN: 4-15-070118-0

越前 敏弥 訳
ISBN: 978-4150701529

人質カノン

7つの短編が入っている。本のタイトルになっている「人質カノン」は偶然コンビニで買い物をしているときに強盗が入ってきて人質になってしまうという話。ミステリー的な物語だが、本格的ミステリーのようにヒントが分からないように埋め込まれているのではなく、読めば分かるように書いてあるから気軽に読める。妙に理屈っぽくて落ち着いている子供が面白い。

他には電車で拾った手帳の持ち主を探し出す「過去の手帳」、おじいさんの遺書に書かれた言葉の意味を探り当てる「八月の雪」は短編ながらも読み応えがあった。八月の雪は思わぬ歴史的事件が出てくる。社会を真面目に勉強していてよかった、みたいな。

個人的に興味深かったのは「生者の特権」。飛び降り自殺をしようと13階建てのビルを探している明子が主人公。13階建てってないよね、もしかして実在しないのかな、14階は結構あるけど。死ぬ理由は男に二股かけられて捨てられたから。この明子が夜の小学校に忍び込もうとしている子供と出会って、一緒に校舎の中に不法侵入(笑)することになるのだが、校内でお化けと出会ってびっくりして逃げる。

明子は後を振り返らなかった。死んでも振り返りたくなかった。だって見えたらどうしよう。
(p.254)

ていうか、死にたいんじゃなかったのか。この話はザックリいえば子供と出会ったことで自分の生存意義を再認識するというストーリーだが、そんな単純なことで生きる意欲が生まれるということに驚く。逆にいえば、今の人達はそんなに簡単なことで死のうと決断してしまうということか。なんてモッタイナイ話なんだ。フィクションだからリアルに当てはめるのがおかしいのかもしれないが。解説に書かれている

弱者のエールにあふれた作品
(p.314)

というのがどうしてもピンと来ない。こういうのがジェネレーションギャップというものなのだろう。



人質カノン
宮部みゆき 著
文春文庫
4-16-754904-2

学歴と格差・不平等

日本は学歴社会だろうか。この問いに答えるためには、学歴社会とは何かを明確にする必要がある。学歴社会の一般的な意味としては、次のような定義がある。

人間の社会的地位や収入、さらには人物の評価までが学歴によって決められる社会
(広辞苑)

今の日本で社会的地位や収入が学歴によって固定されているわけではない。中卒でも国会議員になれるし選挙権もある。大卒よりも高収入の人だって大勢いる。医師のような高度に専門的な能力が必要な一部の職業を除けば、学歴に関わらずどのような職業にも就け、社会的な地位を得ることができる。

学問的な厳密な意味としては、次のように定義されている。

そもそも学歴社会とは、厳密な意味では、卒業した学校によって将来が決まってしまうという学歴メリトクラシー(学歴が有効な判断基準となる制度)、学歴クレデンシャリズム(学卒資格至上主義)が重要な意味・作用を持つ社会であるとされてきた。
(pp.20-21)

しかし、大卒が高卒以下の学歴よりも高く評価されているという現実がある。大学を出たら必ず就職できる保証はない。それだけでも今の日本は厳密な意味での学歴社会とはいえないのだが、日本には新卒採用という独特の就職支援制度があるし、学歴フィルターという謎のシステムが存在し、一流企業に入るには一流大学を卒業すれば有利になるのも事実である。

このような社会に関して、この本には「学歴主義の社会」という表現が出てくる。

第二は、日本社会は学歴によって職業的地位が決まるという傾向を強くもつ学歴主義の社会ではあるのだが、その度合いは他の先進工業国と比べて突出しているわけではないということである。
(p.132-133)

基本的に日本人は学歴が好きだ。既に大学進学率の増加傾向は頭打ちになっており、高学歴化の傾向は見られなくなっているが、昔のような大学は学者になりたい人か金持ちの道楽だ、といわれていた時代から考えると、同世代の半数以上が大学に進学するというのは異常である。なぜこのような社会になったのか。次のような仮説が出てくる。

日本社会の高学歴化は、家計の経済的な負担の軽重を度外視した(主として親の側の)向学心、あるいは大衆的なメリトクラシーへの信頼によって成立してきたとみるのが有力な考え方である。
(p.118)

ネットでは生活保護でも大学に行かせたいという話題で盛り上がる。生活に困るような状況で、働いてお金を得るよりも学業を優先するという考えには、米百俵にも通じるところがあるのかもしれない。勉強して偉い人になる、お金持ちになる、という考え方根強いのかもしれない。

しかし、それはいろんな理由があって簡単ではない。具体的な理由は省略するが、この本は、その結果として高卒と大卒の間に壁があると主張している。

こんにちのあらゆる格差・不平等について、多くの要因が関与する構造があるなかで、もっとも影響力のある明確な境界線をひとつだけ挙げるとすれば、それは大卒/非大卒間の学歴境界線であると本書は主張しているのである。
(pp.252-253)

この本が書かれたのは2006年で、今はさらに少子化が進み、前述したような大卒・高卒の賃金が逆転するようなケースも見られるようになってきたが、これは大卒/非大卒という区切りを、ある程度のレベルの以上の大卒、のように絞ればいいだけなので、本質的な問題ではない。先日の書評でも述べたように、社会が大卒を評価するのは、その人が努力した、勉強したという事実を認めた結果なのだから、勉強しなくても入れる大学が出現すれば、大卒だというだけの理由で評価されないのは当然であろう。

ただ、この本はそれを指摘しているだけで、是非を主張しているわけではない。それは読む人が考えるべきことなのだ。



学歴と格差・不平等
吉川徹 著
東京大学出版会
ISBN: 978-4130501668

非亡伝

今回は全世界に出て行きます。既に背景となる世界が異次元感覚なので今更世界といわれても、という感じがしなくもないけど。出てくるキャラは四国編からリクルートした人達なので引き継がれています。安心感があります。あのヘンな魔法少女たちもちゃんと出てきます。

いろいろ面白いエピソードはあるのだけど、個人的に一番気になったのは些細なところで、土使いのスクラップこと好藤覧と火使いのスパートこと灯籠木四子がイギリスまで調査に出かけるときに直線移動したというところ。

日本からイギリスまで、トンネルを掘って到達したのである。地球を半周するような距離を掘削し、最短距離で…
(p.125)

豪快だね。地球を半周というのは厳密にいえば日本とロンドンの時差が9時間だから、0.375周って感じかな。トンネルを掘って地球表面上、いや、地球表面下を地上の建造物を無視して最短で掘った、ってことなのかな。モグラタンク的な。しかし東京でちょっと地下鉄のトンネルを掘るだけでも水が噴き出てきて大パニックになるのに、本当に大丈夫なのか、地底人との遭遇とかないのか、と思ったりしますが。

一路というなら、まさしく一路の、直線移動。
等速直線運動
(p.125)

マジ直線で掘るとマグマとか噴出してきそうで危険ですよね。ていうか、地球の半径は約 7000km で、本当に直線を引くと一番深いところは地球中心から約2800km、地表からは3100kmの距離になる。これはマントルを越えてコアの領域。これがコアか。熱いとかで済む世界ではありま温泉。

地下二千メートルに生じる『地熱』をコントロールして
(p.125)

2000m = 2km も掘ったら流石に温泉どころではなさそうだが、いや、結構深いところまで掘って出す温泉とかあったような気もするなぁ。石油は出てこないのだろうか、とかいろいろ妄想してしまうけど本編とは何の関係もないです。

この巻は全世界で調査してこいというミッションなのですが、捜査の基本はペアということで2人ずつ調査に乗り出します。最初に紹介した好藤・灯籠木ペアは2人とも天才的魔法少女という設定です。ていうより天災的な気もしますけど。この二人の天才魔法少女が超人のボス、空々上司を評して、

完璧主義者じゃないってことねー。強いていえば、不完全主義者かな?
(p.122)

これは面白いと思いましたね。私は無主義主義者を自称していた頃があったど、不完全主義者というのもいいな。完全な不完全を目指すんですよね。

ちなみに気になる魔女のかんずめちゃんとペアを組んだのが人類最強の天然少女、地濃様。うっかり「様」付けちゃったよ。付けたくなるよね。魔法が使えるとはいえ少女が海外にいきなり調査に行って、けいおん!!みたいなことにならないのか、ほにゃららラーニングとかやった方がいいんじゃないか、とか思うかもしれませんが、

それはディスコミュニケーション能力、あるいはアンチコミュニケーション能力とでも言うべきものなのかもしれないけど、現地の人間相手にも一歩も引かず、日本語と身振り手振りだけでぐいぐい行く彼女は、とうとうここまで、郷に入りながらも郷に従うことなく、己を貫いて、仕事を成し遂げていた。
(p.323)

そりゃ英語分からない日本人が変な英語使って会話しようとするよりは、アニメ好きで片言が分かる外国人でも探して日本語で押しまくった方が伝わるような気もしますよね。本当はテレパスなんじゃないのか。

この巻のお言葉からは、2つセレクトしてみました。

本番に弱いタイプって、いったい何に強いんだ?
(p.216)

リハーサルとかシミュレーションみたいな普通の反応でなくてうまくボケたいと思ったけど、何も思いつきません。追試とか。模試とか。

「出る杭は打たれる」というのはあくまで被害者側の言い分であって、大多数の人間は、「出る杭を打つ」側だ。
(p.454)

昔は打つ人も少なくて、大多数は傍観者だったのですけどね。見せしめの刑とか。生き埋めにしてのこぎりで切ってください、みたいな。「罪のない人だけが石を投げなさい」といったら集まっていた人達が一斉に石を投げ始めた、って何の話だっけ。ITが使えるようになって、杭を打つ人はとても多くなったようです。炎上の時代なのです。


非亡伝
西尾 維新 著
講談社
ISBN: 978-4062990615

プレジデントFamily 2017年04月号(2017春号:わが子の受験大激変! )

主に小学生のお子様のいる家庭をターゲットにした雑誌です。昔は月刊でしたが、最近は季刊になってしまいました、少子化の影響で部数が伸びないのかな。この本は、たまに東大生特集で小学生時代のアンケートを実施するので、その時だけ買っていたのですが、この号は面白そうな記事が3つあったので買ってしまいました。

1つ目は、「型破りの個性が育った学校選び」です。この記事には3人の凄い人が紹介されています。

まず、牧浦土雅さん(23)

ルワンダで農業事業、タイで医療事業。現在はフィリピンを拠点に「Quipper」という教育事業に取り組んでいる。
(p.26)

小学校が学習院、中学は公立だがその後イギリスに留学して大学は中退という学歴なんですけど、中退といえばホリエモンもそうですね。中退の理由は?

中退の方がカッコいいでしょ? だって能力があれば、学歴なんて必要ないですから。知識を身に付けるだけだったら、家庭教師やオンライン講座で十分です。
(p.27)

確かアハ体験の茂木先生が、インターネットがあれば大学は必要ないという話をしているけど、実力があるだけでなくアピールできる人だからこその選択肢ですね。

次のスゴい人は、

現在、プロのバレエダンサーとして世界中を飛び回りながら、オンラインのハーバード大学リベラルアーツ学部で学ぶ脇田紗也加さん(21歳)。
(p.28)

小学校はインターナショナルスクールだったが、小5で公立小学校に転校してカルチャーショックを受けたそうです。

作文では習っていない漢字を使うと、ペケ。
(p.28)

日本の小学校ってまだこういう教育してるのですかね。こういう育て方をすると日本人になるのかな。まあそれはおいといて、その後、カナダに留学。高校でベルギーに留学。16歳で東京インターハイスクール、その後ハーバード大学リベラルアーツ学部に入学しています。オンラインで学位が取れるそうですが、そういう話と比べると、やはり日本ってIT後進国なんですかね。最高レベルのインフラや通信速度があっても、中身が問題。

しかし何でバレエなのに大学かというと、

勉強を続けることがバレエの表現を豊かにしてくれると信じていました。
(p.29)

これが志ということなんでしょうか。

3人目は角南萌さん、プログラマーさんです。アメリカのボーディングスクールに留学。現在12年生(高3)。

昨年は「女性文学」の授業でロールモデルが少ない女性プログラマーが世界をいかに切り開いてきたのかを考えたり、「仏教」の授業を通じてITで本当に人を幸せにするためのヒントを探りました。
(p.31)

発想が面白いですよね、私も最近、ウソをつくAIはどうすれば作れるのか考えたりしてますけど、だって人間に近付こうとしたらウソくらいつけないとダメだからね(笑)。プログラミングと宗教というと禅が好きなプログラマーは多いみたいだけど、プログラムが悟ったら世界は何か変わるのだろうか、みたいな所まで考えているのかな。

2つ目の記事は「いまどき高校生の超充実ライフ」。時間がない【謎】なので端折って見出しを紹介すると、アプリ甲子園2016優勝(1日7時間、アプリ開発に熱中)、高校生アーティスト(独自のペン画が話題! 個展も開催)、模擬国連世界大会出場(教授、企業トップにも物おじせず会いに行く)、てな感じです。

3つ目の記事は、第2特集「未来を変える天才・奇才大集合」 

いろんな人が出てきます。トップは「見てる、知ってる、考えてる」の著者。中島芭旺さん。11歳です。有名ですよね。

幼児期から『辞書を読んで』とせがむような子で、
(p.78)

何かズレているような気がしないでもないが、子供って辞書は割と好きなのかも。

他にも小2で数検準1級合格とか、2歳で特許取った人とか、4歳で個展を開いたとか、とんでもなさすぎる人達がわんさか出てくるのです。ITによって技術が超高速で進化しているらしいけど、もしかして人類も急速に進化していたりするのかもしれません。



プレジデントFamily(ファミリー)2017年04月号(2017春号:わが子の受験大激変! )
プレジデント社 発行

東大2017 とんがる東大 (現役東大生がつくる東大受験本)

先日、Yahoo!知恵袋の話を書いたけど、この本も回答作成用に買いました。ていうか実はムツゴロウさんのインタビュー記事が出ているから買ったのだけど。この本は毎年出ているので、もうすぐ2018年版が出るのかもしれないから、今のうちに書いておきます。

そのインタビュー記事から。

駒場の2年間では生物学の基礎を学び、命の秘密を見たように思いました。
(p.271)

当時と今ではちょっとカリキュラムとか違うらしい。最近、推薦入学を始めて話題になっていたりするが、東大の入試問題は考えないと解けない問題が出るというのが定説です。自分で考えて解ける力がある人が勝てるわけ。知恵袋では「どの参考書をやればいいですか」みたいな質問がよくあるけど、大学によってこれかな、という参考書があって、どの大学か指定してくれないと回答できないんですよね。まあだいたい学力が想像できればできないこともないけど。

これが、東大の場合は参考書を示す必要がないのです。学力は関係なくて、「自分で考えろ」という回答を書けばいいから。東大はまさにその自分で考えるという力を高めることが一番重要。自分で考えて参考書を選ぶところから勉強なんです。だからこの回答なんですね。質問している人で、そこが分かっている人が何割いるかな。

しかし推薦入試を始めるとか聞くと、東大生ってその考える能力はどの程度あるのかな、とか思ったりするけど。

私は世界中の大学を回って学生と話しましたが、東大生のように自分でよく考えて学んでいた学生はいませんでしたね。
(p.274)

あまり心配いらないってことかな。TVに出てくる東大生とか見てると、大丈夫なのか東大生、みたいな超絶危機感もあるのだけど、ヒトゴトだしどうでもいいか。

この本には必勝勉強法とか、落ちた人の体験記とか、参考になりそうな記事がたくさんあるけど、例えばアンケート。合格に必要なものというのがあって、東大生にアンケートをとっています。

実力以外で東大合格に必要なものを聞くと「周りの環境」が54.5%で最多、「運」が52.5%と続いた。
(p.28)

東大生の半分はで合格していた! 驚愕の事実が(笑)

他にも東大まんがくらぶの描いているマンガに出てくる、大手企業全落ちした保坂くんも気になるけど、この本の最後に出てくる2015年度学部・大学院別就職先データというのも実に興味深い。ちゃんと学部別、企業別にどこに何人、というレベルで紹介しています。法学部から富士通みたいな異種産業(でもないのかな?)に就職している人とかいるし、文学部から漫画家になったり農学部から在宅ライターになるというのはどういう人なんだろうと想像しても微妙にイメージが出てこない。文学部から虹の邑ポパイくん、なんての見るとついググってしまうのです。



東大2017 とんがる東大 (現役東大生がつくる東大受験本)
東京大学出版会
ISBN: 978-4130013000

トンパ文字―生きているもう1つの象形文字

絵文字ってあるでしょ、元はパソコン通信のような世界で、文字を使って顔を作っていました。日本だと (^^) というのが有名かな。欧米は :-) みたいなの。携帯の時代になって、本当に絵の文字が出てきた。絵の文字というよりも文字サイズの絵だね。ITが進化して、字は絵になった。

では昔はどうなの、というと何千年とか前だと象形文字の世界で、エジプトのヒエログリフとか有名ですよね。こういうのを書くのは大変なので最適化された成れの果てが今使われている諸言語です。アルファベットとか、日本語だと仮名とか漢字とか。絵は転じて記号になりました。

ところが今も使われている象形文字があります。雲南省北部にのナシ族の使うトンパ文字です。これは日常的に使われているわけではないのですが、この本の写真を見ると看板などにも使われているようですけど、本来これはトンパと呼ばれる人だけが使う文字で、それ故トンパ文字といわれているそうです。本文ではこんな感じで紹介されています。

トンパとは、ナシ族の原始宗教であるトンパ教の祭司(または、伝教師)のことであり、「智者」を意味する。
(p.62)

日本でいえば、お坊さん、いや宮司さんかな。宗教的に偉い人のようです。具体的なお仕事は、

トンパは厄除け、お祓い、先祖を祭る祭典、死者を鎮める儀式など様々な宗教の儀式を行うが、加えて知識人として占い(占星術、紐占い、骨占いなど)や医療活動なども行う。
(p.63)

紐占いというのがちょっと気になるけど。こういう伝統文化は消滅の危機に…というのがどの世界でも常らしく、トンパの文化もピンチのようですね。

トンパの伝統を受け継ぐ若者は久しく現れない。
(p.80)

そのような文化に関する日本語で書かれた本が手に入るというのはびっくりです。実はこの本、本文は日本語だけでなく英語で併記されています。ときにはトンパ文字も出てきます。

本の前半、第1章がトンパ文字で書かれた物語の紹介、第2章が旅行記になっています。どちらもカラー写真がたくさん出てくるので見ていて楽しいです。そのような異次元世界の人達がどのような生活をしているのかというと、日本に似ているというから驚きです。雲南省のような遠く離れたところに日本に似た世界があるというのは興味津々です。一体どういう必然性があったのでしょう。

町を歩いていると、軒先にトウガラシや柿、カンピョウ、大根などを干している光景をよく見かける。日本の農家と同じ光景である。なかでも、私が一番驚いたのは、そばとうどんである。
(p.50)

そばやうどんの食べ方が日本と同じだというのです。村は高地にあって、わさびの話とか出てくるあたり、信州とかのイメージで何となく想像してしまいます。

p.81から p.171 まではトンパ文字の一覧で、辞書みたいなものですが、絵文字って辞書引くときに困りますよね。いや、手書き認識すれば大丈夫なのかな。どんな字なのか興味があれば、ググれば画像が見つかります。じっと見ていると何となく漢字のように見えてくるのも面白いです。



トンパ文字―生きているもう1つの象形文字
王 超鷹 著
マール社 発行
ISBN: 978-4837304142